カルメン (ビゼー)
Carmen (Bizet)
作品紹介(カルメン)
ビゼーの「カルメン」は、有名すぎるが故に通俗的な曲なのでは、と誤解されることがあるのが大変残念ですが、決してそんなことはなく、本当に美しいフランスオペラです。名曲がギッシリでストーリーもわかりやすいのでオペラ初心者にもお薦めですが、初心者だけではなく本当のオペラ好きにも愛される名作中の名作。
よく知られた曲はどれもスペインのフラメンコ風のメロディーですが、それはフランス人の異国情緒好きのなせる技であって、根底にあるのは、やはり優しく流麗なフランス音楽。
フルートが美しい間奏曲や、ミカエラの歌う曲、冒頭の子供たちや煙草工場の女工たちの合唱など、フランスオペラの香気が素晴らしいですのでお聴き逃しなく!スペイン風旋律の中に、ビゼーならではのフランス流メロディーが登場すると、涼やかな風が一筋吹き抜けるような気がします。
有名な曲としては、カルメンの歌うハバネラやジプシーの歌、セギディーリャの歌、ジョゼの歌う花の歌やミカエラと歌う手紙の歌、エスカミーリョの歌う闘牛士の歌、そして前奏曲や間奏曲も素晴らしく、そして必ず入るフラメンコの踊りなど、見所が山盛り、どこを切っても名曲!という本当に楽しめる作品です。
なお本作は、歌だけの「オペラ」として上演されることも多いですが、ビゼーの原作は台詞入りの「オペラコミック形式」で書かれており、それが本来の姿です(レチタティーボ版はビゼーの死後ギローにより改作された版)。
外国人による演奏では難しいことですが、パリオペラ座などでの公演は、見事に軽やかなフランス語の台詞入りの舞台で楽しませてくれます。(現在はフランスに限らずヨーロッパでは台詞入り上演が主流です)
フランスオペラならではのコミカルなシーンもあり、ファム・ファタル(魔性の女)的カルメンの泥沼愛憎劇だけでなく、軽妙な楽しさやジプシー達の自由な気風のよさも出せることが重要なポイントです。
お薦め動画
→ お薦め動画(1) 2010年 メトロポリタン歌劇場 by アラーニャ、ガランチャ
→ お薦め動画(2) 1980年 パリ・オペラ座 by ドミンゴ、ベルガンサ
あらすじ(カルメン)
主役はドン・ジョゼ。日本では「ドン・ホセ」と呼ばれていますがこれはスペイン語読みで、原語のフランス語では「ジョゼ」(José)と発音して歌われますので、そう記載します。ジョゼは・・・いわゆる「ダメ男」です。
(1幕)
セビリヤの町、衛兵がたむろするところに、愛らしい娘ミカエラがドン・ジョゼを訪ねてやってきます。
「ジョゼかい、今はいないけどもうすぐ交代で来るさ、可愛いお嬢ちゃん、ここで俺たちと待ってなよ」と兵隊たちにちょっかいを出され、「いいえ、後でまた来ます〜!」と逃げ帰ります。
ラッパが鳴って衛兵の交代時間になり、町の子供達が集まってきて兵隊の行進の真似をして歌い騒ぎます。ジョゼは上官に「可愛い子がおまえに会いに来たぞ、青い服でおさげ髪の」と言われ、「きっとミカエラだ」と故郷へ思いをはせます。
煙草工場の休憩時間の鐘が鳴り、女工の娘たちが出てきます。待ち伏せする男たち。そこで働くカルメンは、奔放で妖艶な魅力で男たちの憧れの的です。
しかし、伍長のジョゼはイケメンだけれど真面目で愚直な男で、カルメンになど目もくれません。それが面白くないカルメンは、とりまきたちに囲まれて歌いながら(ハバネラ:恋は野の鳥)、ジョゼの気を引くように彼に花を投げつけます。あんなあばずれ女!と罵りながら、その強い香りの花を拾ってポケットに入れてしまうジョゼ。(orz)
そこにミカエラがやってきます。ジョゼの故郷の母に引き取られているこの娘は、母からの手紙と少しのお金を持って遠路訪ねてきたのでした。再会を喜び、はにかみながらお母さんからのベゼ(キス)と共に手紙を渡し、大変美しい2重唱(手紙の歌)を歌います。
手紙は、「息子がいなくて淋しい、早く帰ってきてこの優しい娘と結婚してほしい」という内容で、ジョゼは「ああ、母のベゼが、僕をあの悪魔の誘惑から守ってくれた」と思うのでした。
ミカエラが帰った後、女工たちの叫び声がし喧嘩騒ぎが始まります。カルメンが同僚と派手な喧嘩をして怪我をさせ、しょっぴかれることになります。お縄にして連行する役目のジョゼは、2人だけになった時にカルメンに色目を使って歌いかけられます。(セギディーリャの歌)
「しゃべるなと言っただろう!」
「しゃべってなんかいないわ。歌ってるだけよ、それはダメとは言ってないでしょう。そして考えているの。ある士官さんのことを・・・」 (ドキっとするジョゼ)
「縄をほどいて逃がしてちょうだい。リーリャスバスティアの店を知っている?セビリア城壁の近くの。ひとりで行ってもつまらないわ、あなたと一緒に行きたいの、あそこで二人でお酒を飲んで踊りましょう・・・」
「ああ・・俺は酔ってしまったようだ。カルメン、本当に愛してくれるのかい! 約束だよ」 そして縄をほどき逃がしてしまいます。(orz)
(2幕)
それから2カ月後、リーリャスバスティアの酒場。大勢の客が飲み、歌っています。
カルメンの歌う「ジプシーの歌」(その際大抵フラメンコの踊りが入ります)、そしてエスカミーリョの「闘牛士の歌」が続き、めっちゃ盛り上がる冒頭シーン。
人気の闘牛士エスカミーリョは皆から大喝采を浴び、ひときわ目をひくカルメンに早速色目を送ります。「次に牛を殺すときに、君の名を叫んでやるさ」と。
彼が去った後、ジプシー仲間たちがカルメンに密輸の仕事の話を持ちかけます。しかし、「私は行けない」、と答えるカルメン。なぜ? どうして?と問う彼らに、「だって・・・ 恋してるんですもの!」 唖然として笑いだす仲間たち。
そこへ噂のジョゼが現れます。カルメンを逃がした罪で投獄され、やっと出られたばかり。騎竜兵の歌をうたって颯爽と登場します。
いじらしくもずっとジョゼを待っていたカルメンは喜び、彼のためにカスタネット片手に歌を歌い始めますが、そのとき遠くで帰営のラッパが鳴ります。帰らなければ、とソワソワするジョゼをよそに、「まあ、ちょうど伴奏が欲しかったのよ」、とラッパの音に合わせて踊るカルメン。しかしそれでも帰ろうとするジョゼに、怒りだします。
「私はあなたのために歌って、踊っているのよ。なのに、タラッタッターとラッパが鳴ったら小鳥のように飛んでお帰りなのね!そんな男に用はないわ、お帰り坊や!」
「ひどいよカルメン、行くのは辛いんだ、でも点呼で戻らなければいけないのはわかるだろう!」と言って歌う「花の歌」。
「おまえの投げたこの花をずっと手放さなかった、しおれても強い香りで、おまえを思い続けた、運命を呪いつつも願いはひとつだけ、カルメン、ジュテーム!」
「いいえ、愛してなんかいないわ、本当に愛してるならどこまでもあたしを追って来るはず。遠く遠く山の中へ、馬に乗って、私を乗せて、連れ去るはず!」
しかし脱走兵になって密輸団に加わることなどジョゼにはできません。
そこへジョゼの上官のスニガが現れます。カルメンと逢引きしようと来たのに、こともあろうに部下のジョゼに取られていたとは、しかも帰営もせずに、と怒り心頭。ジョゼも逆上して剣を抜いたところにカルメンの仲間たちが現れ、スニガをなだめつつ脅して黙らせます。
上官に剣を抜いたとあっては、もう軍には戻れません。
「これであたしたちの仲間ね」と言うカルメンに、「そうするしかないだろう」と答えるジョゼ。
「男らしくない言い方ね。まあいいわ、一緒にいらっしゃい放浪の生活へ。掟などない、すべて思いのまま、自由よ自由!!」
そして渋々ながら、しかし若干嬉しそうに「ラ・リベルテ!(自由)」と唱和するジョゼ。
(3幕)
密輸団は山の中を危険な旅を続けています。仲間に入っているジョゼ。
しかしカルメンとの仲はすでに冷えつつあり、ジプシーたちの雰囲気に馴染めず一人浮いてしまい、まだ自分を真人間と信じているはずの故郷の母を思い出してしまいます。そんなジョゼにイライラするカルメンは、「あんたにこの仕事は向いてない、あんたの居る場所じゃない」と切り捨てます。
気晴らしにカード占いをする女たち(カードの歌)を真似てカルメンも占うと、出るカードはすべて「死」。何度繰り返しても出る死のカードに、運命を悟ります。
いよいよ密輸品を町に運び入れる段になり、税官吏をどうごまかすかという話で、「あたしたちに任せて!お色気作戦で通してみせるわ!」と女たちが歌うところは、ジプシーの自由でたくましい心意気が見事で、惚れ惚れするシーンです。
暗い険しい山の中、ミカエラが雇ったガイドに伴われて現れます。ジョゼをさがしに地元の人も近づかないような危険な場所まで一人で来たミカエラ。決意を込めて「何も怖れるものはない」を歌います。
そしてミカエラは遠くにジョゼの姿を見つけます。銃を構えている。銃声!
なんと、ジョゼが撃ったのはエスカミーリョ。しかし弾ははずれ、敵ではないことがわかりジョゼは銃をしまいます。ところがエスカミーリョはカルメンに会いに来たと言い、「彼女のために脱走した兵士がいたそうだが、もう終わっているだろう、カルメンの恋は半年ともたない」 それを聞いたジョゼは激しく怒り決闘になります。
しかし途中でカルメンたちが駆けつけて止めに入ります。エスカミーリョは「皆さんをセビリヤの闘牛に招待しよう。私はベストをつくす。そして愛するカルメンに見に来てほしい」とかっこつけて帰っていきます。憤懣やるかたないジョゼ。
さあ出発しよう、という時に隠れていたミカエラが発見されます。ジョゼに駆け寄って、あの「手紙の歌」のメロディーで「お母さんはあなたを想って泣いているわ!」と帰郷を訴えるミカエラに、あれまあ、こんな小娘が登場だ!と笑いだすカルメン。
「行け行け、この娘と一緒に帰るがいいわ、この仕事はあんたにはむかない」とあっさり言い放つカルメンに、ジョゼは「そうか、おまえが新しい恋人に走るのにちょうどいいってわけか、いやだ!絶対に俺は帰らない、死んでもおまえとの絆はきれないんだ!」と激怒。
「ジョゼ、もうひとつ言うことがあるの、これが最後よ。お母様は死にそうなの、でもあなたが赦されるまでは死ぬに死ねないって・・」
「母さんが! ああ!、ああ行くよ!・・・カルメン、これで満足か!だが必ずまた会うからな!」
遠くから聞こえてくるエスカミーリョのトレアドールの歌で幕。
(4幕)
セビリアの闘牛場は祭りの賑わいで、大勢の群衆が歌い騒ぎます。
ドン・ジョゼは故郷に帰ったがその後また居なくなっている、と噂になっています。
行進曲が始まり、闘牛士の登場。熱狂的に迎える観衆たちの前にエスカミーリョが現れます。
カルメンが駆け寄り熱烈な愛の交歓。「もうすぐ君は俺を誇りに思うだろう」とキザな台詞。
彼が場内に消えた後、仲間たちがカルメンに「気を付けて、ジョゼが来てるわ!」と何度も忠告するのですが、「私は逃げもかくれもしない」と動じません。
ジョゼが来ます。
「あんたね」
「俺だ」
「カルメン、頼む。過去はもう忘れるから、二人でやり直そう、どこか遠いところで」
「無理よ、私たちは終わったのよ。私は嘘はつかない、本当のことしか言わないわ」
「カルメン、時間はある、まだ時間はある。愛するおまえを救わせてくれ。そして俺も救ってくれ」
「いいえ、もう時間はないのよ。死ぬ時が迫ってたとしても、私は言いなりにはならない」
「ああ、まだ時間はある!お前を救わせてくれ!」
「無駄よ!もうこの愛はあなたへのものじゃないの!もう何もないのよ!」
「・・・本当にもう愛していないのか?」
「愛してないわ」
「俺はまだ愛している、おまえに焦がれている! 俺を捨てないでくれ! おまえが望むなら何でもする、思い出してくれ、あんなに愛し合っていたじゃないか!」
(闘牛場の中から歓声)
「どこへ行く!? あの男のところへ行くのか、あいつの腕の中で俺を笑うのか!血を流してでもおまえを行かせはしないぞ!」
「なんと言われようと私は従わないわ。カルメンは自由に生まれ自由に死ぬのよ」
「もう脅し疲れた、これが最後だ、俺について来るか!」
「ノン! ほら、昔くれた指輪!」(指輪を投げ捨てる)
ジョゼは短剣でカルメンを突き刺す。
闘牛場からはファンファーレと闘牛士を讃える歌。
ジョゼの絶叫。
※「ハバネラ」の歌詞とカタカナ読み、訳を カラオケdeフランスオペラ のページに載せています。
※「花の歌」の歌詞とカタカナ読み、訳を カラオケdeフランスオペラ のページに載せています。