美しきエレーヌ (オッフェンバック)
La belle Hélène (Offenbach)
作品紹介(美しきエレーヌ)
「美しきエレーヌ」は、オッフェンバックのオペレッタの中で「天国と地獄(地獄のオルフェ)」の次くらいに有名な作品ですが、これが死ぬほど面白い!!
オペレッタ見てこんなに大笑いしたのは生まれて初めて、ってほど面白く、何度見ても、見れば見るほど笑えます!
こんな傑作があまり知られていないのは本当に勿体ないことで、馬鹿馬鹿しく底抜けに明るいストーリーながら音楽は瑞々しく快活で生気に溢れ、耳馴染みやすいメロディーなのに決して低俗に堕すことのない素晴らしい音楽の連続で、これが「シャンゼリゼのモーツァルト」と言われた所以たるオッフェンバックの天才か!と思い知りました。
題材は、「天国と地獄」同様にギリシア神話を元ネタにパロディ化したもので、エレーヌというのは「世界三大美女」のひとりヘレネのことです(ちなみにあとの2人の美女はクレオパトラと楊貴妃)。その美しさ故に、有名なトロイア戦争の原因になりました。元ネタはそれほど重要でもないのだけど、一応知っておいた方が楽しめます。
元ネタ ヘレネの神話のあらすじ
3人の女神が「最も美しい神」を決めることになり、トロイアの王子パリスが審判を委ねられました。(「パリスの審判」。最も美しい神には黄金の林檎が与えられる) ヴィーナスはパリスに「私を選んでくれたら、この世で最も美しい女性をあなたに与えましょう」と賄賂をつかって自分を選んでもらいます。ヴィーナスが見返りに与えたのは絶世の美女と名高いスパルタの王女ヘレネ。パリスがヘレネをトロイアに連れ去ったために、ギリシア軍がトロイアに攻め入ってトロイア戦争が勃発し、その後の膨大な悲劇の元となりました。
あらすじ(美しきエレーヌ)
【1幕】
エレーヌ(ヘレネ)は、王である夫のメネラスとの愛も情熱もない暮らしに倦み、「愛をください、愛のない世界にこそ愛が必要なの!」と欲求不満気味。
そこに現れたのはイケメンの羊飼い。水も滴るいい男にひと目で惹かれるエレーヌですが、そこは人妻なので我慢。しかし彼は、なぞなぞ大会で並みいる神々を相手に優勝し、「我こそはパリス!」と名乗りをあげます。「まあ!あなたが林檎の男だったのね!(パリスの審判の神話より。L'homme à la pomme韻を踏んでます)」と舞上がるエレーヌですが、なんとしても夫が邪魔。
すると、パリスは神官カルカスと共謀して「ヴィーナスからの託宣」と偽り「メネラスは4週間クレタ島に行くべし」と命じます。訳も分からず「クレタ島に?行けばいいの?」という王は、「旅をいやがる王様は思慮が足りませんわよ」と妻に諭され、「クレタ島に行け!」の全員合唱に送られて出帆してゆきます。
【2幕】
夫がいなくなってもまだ、「やっぱりいけないわ・・・」とためらっていたエレーヌですが、「あら、でもこれって夢の中?夢ならまあいいわね」と、ついにパリスとベッドイン。と、そこへメネラスがなぜか帰ってきます。
妻の浮気現場を見つけて激怒するメネラスに、慌てるエレーヌですが、突然開き直ります。「でも、あなただっていけないのよ」。「僕が?どうして?」「賢明な夫は、旅から帰る前には妻が優しく出迎えられるようにあらかじめ連絡するものよ」「そうそう、連絡もせずに突然帰ったら、紳士だって不都合な目に合うものだ!」とこれまた全員合唱で責められて小さくなる王様。(可笑しすぎる!)
そしてその後の合唱つきアンサンブルの2幕のフィナーレは、グランドオペラのパロディ風の壮大なコンチェルタートにピリッと笑いが入って圧巻!
【3幕】
パリスに約束の美女を与えられなかったヴィーナスは、仕返しにギリシャの人々から愛と快楽を奪ってしまいました。メネラスとエレーヌも喧嘩ばかり。これではギリシャは滅びてしまう、と、カルカスたちはメネラスにヴィーナスに謝罪してほしいと頼みます。
するとヴィーナスの聖地シテール島の神官が船に乗って現れ、エレーヌが島に供物を捧げに来ればギリシャを助けようと告げます。最初はいやがっていたエレーヌですが、その神官が実はパリスが変装していることに気づき喜んで船に乗り込みます。「シテール島へ行け!」の全員合唱(クレタ島の時と同じ歌)に送られて出帆した後に「我こそはパリス!」と正体を明かすと、メネラスは悔しがり「トロイアめ、必ず復讐するぞ!」と誓うのでした。
お薦め動画
お薦め動画は、2000年のパリ・シャトレ座。(指揮・ミンコフスキ)
これはもう、大変な傑作です。
歌手陣が信じられないほど豪華で、驚くべき名演技!そして、ロラン・ペリーの演出がオッフェンバックの天才と双璧かと思うほど天才的素晴らしさ!
ロラン・ペリーというのはフランス生まれの若い演出家なのですが、リヨンの「天国と地獄」をはじめ、世界中で上演されている「連隊の娘」や「愛の妙薬」などの傑作を次々生み出していて、現代的でコミカルながら詩情豊かな独特の作風がまったく天才的です。この美しきエレーヌはまさに彼の真骨頂というべき素晴らしさで、本当に感心してしまいました。
歌手陣は、まずエレーヌ役のフェリシティ・ロット。この時すでに50代の彼女は、本来エレーヌを演るにはトシすぎるのですが、でもこれが逆に愛に焦がれる黄昏マダムの可笑しさが出て秀逸。お茶目で気品のあるオバサマと若いイケメンパリスがいいコンビです。彼女はイギリス人で、オッフェンバックを演るのは初めてだったというのだから驚き。完璧なフランス語のディクションはフランスオペレッタ界の大御所かと思うほどなのに!
パリス役のヤン・ブロンがまた最高!オペラ歌手というより普通の兄ちゃん風のチャラい感じが逆にユニークで、でもピチピチ若くて歌は上手いし芸達者。最後の最後にはロックンロール姿でヨーデルまでバッチリいい声で歌うもんだから、大ファンになってしまいました。
メネラス役は、フランスオペラ界の大大ベテラン、ミッシェル・セネシャル。彼は道化役や名脇役として何十年もフランスオペラを支えている大テノールで、今回もすっトボケた王様の存在感抜群です。
そして脇役には勿体ない、これまたフランスの名歌手フランソワ・ルルーとロラン・ナウリの二人!こんな実力派歌手が大真面目にコミカルなダンスを踊りながら素晴らしい声で歌ってくれるのだから、もう感涙ものです!(私は二人とも大ファンなのです)
チョイ役も上手いし(二人組のキャバ嬢とか)、スッチーや水着姿も楽しいダンスも最高!ツアコンに率いられたギリシャ観光ツアー客になってる合唱団も最高!(短パンでリュックしょってる)という、まったく素晴らしい作品です。
YouTubeもたくさん出てるけど、日本語字幕つきのDVDが2000円台で買えるのですから、どうぞ買って見てみてくださいね!
●こちらから全曲 2000年 パリ・シャトレ座
●1幕 エレーヌの「愛をください」のアリア Amours divins
●1幕 パリスのアリア 「イダ山の上で」(パリスの審判の顛末を話す)
●1幕 王様達の入場行進
観光客たち(合唱団)がツアコンに先導されて神話の王様たちを見物してるのが可笑しいです。写真撮ったりしてるし。
最後に登場するアガメムノンのロラン・ナウリ、コミカルなシーンながらなんという美声〜
●1幕 クレタ島へ行け!の合唱
王様が追い出されちゃうナンセンスシーン。パリスがベッドにふんぞり返って歌い出すとこや、客室乗務員が出てきて踊り出すシーンは何度見ても笑える!!最高に楽しいシーンです。
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●2幕 エレーヌとパリスの愛の2重唱
甘いデュエットなのですが、夢の中ということで、羊ちゃん達がゾロゾロ出てきて踊るのには大笑い!! 客席から思わず拍手が湧きおこり、「シーッ!」って言われてるのも楽しい。
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●3幕 パリスの最後のアリア〜フィナーレ
「僕は辛気臭いのは苦手です。明るく楽しく行きましょう!」と歌うパリスのヨーデルがイケてます!
最後はみんなハッピー、王様も旅立つ妻を喜んで見送ってます。
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