ブライアン・イーメル (テノール)
Bryan Hymel 1979年生まれ
ブライアン・イーメルは1979年生まれですので、まだ30代半ば。現在若手テノールの中で、最も注目を集めているうちの一人です。
まだ駆け出し、実績も少なく、これからどうなるか分からない歌手ではありますが、彼の特殊なレパートリーに期待を込めて、「フランスオペラの名歌手」に取り上げてみました。
何が特殊かというと、フランスのレアなグランドオペラや、フランス語のヒーロー的な役を特に多く歌っていることです。
フランスオペラをレパートリーにしているテノールは少なくありませんが、大抵はメジャーなカルメン、ファウスト、ホフマン物語、それと最近人気急上昇してメジャーの仲間入りしたウェルテル、マノン、ロメオとジュリエットまでで、それ以外のマイナーオペラを積極的に歌おうとする人は滅多にいません。(現役ではアラーニャ、クンデ、オズボーンくらい)
しかるにイーメルのレパートリーは、トロイアの人々(ベルリオーズ)、悪魔のロベール(マイアベーア)、シチリア島の夕べの祈り(ヴェルディ)、サムソンとデリラ(サンサーンス)、ウイリアム・テル(ロッシーニ)、ユグノー教徒(マイアベーア)、ファウストの劫罰(ベルリオーズ)などなど。
フランス物の中でも、マイナー、長大壮大、重量級・・・等の理由で普通の人が尻込みするような役ばかり軒並みチャレンジしてくれています。
そもそも彼が注目を集めたのは、2012年のトロイアの人々。ヨナス・カウフマンがキャンセルしたROHで代役を見事に果たし、同じくメトでマルチェロ・ジョルダーニが降板したライブHDに急遽登板して絶賛されました。私もそのトロイ人で初めて知ったのですが、強靭なエネをパワフルに歌って若さが際立っていました。
その後、悪魔のロベールのDVDを見て、ほほ~演技も悪くない。立ち姿も堂々として立派だし、しかも最近彼が出したファーストアルバムは、フランスオペラアリア集。フランス語のオペラから英雄的な役のアリアを集めていて、かなりレアです。(同時期にやはりフランスオペラアリア集のCDを出したベチャワとグリゴーロとは、選曲が全く違っている!)
彼は2012年ROHでのトロイアの人々と悪魔のロベール(およびルサルカ)により、イギリスのローレンス・オリヴィエ賞を受賞しています。
これから復活の兆しを見せているフランスのグランドオペラ(マイアベーアやベルリオーズなど)の上演に、彼は欠かせない人材になるかもしれない・・・と思ったのですよ。
ちなみにイーメルはアメリカ人ですが、お父さんがアメリカのフランス語圏の地区(ニューオリンズ?)出身だそうで、フランス語には親しんでいたらしい(インタビューを流し聞いただけなので、もしかすると間違ってるかもしれません。まだあまり情報がないのです)
Hymelと書いてイーメルと読む「H落ち」は、もしかしてフランス流なのかな?(hymne:讃歌(イムン)という仏語に似てるような)
とにかく、今後を楽しみに見守りたいと思います。
お薦め動画
●ベルリオーズ トロイアの人々 "Inutiles regrets" 2013年 メトロポリタン歌劇場
●マイアベーア 悪魔のロベール 2012年 ROH
●ロッシーニ ウィリアム・テル(ギヨーム・テル) "Asile héréditaire" 2014年 バイエルン国立歌劇場
●ビゼー カルメン ミカエラとの2重唱(手紙の歌)
●ビゼー カルメン 花の歌
●ベルリオーズ レクイエム 2015年 トゥールーズ