ユダヤの女 (アレヴィ)
    La juive (Halévy)


作品紹介 (ユダヤの女)

この「ユダヤの女」は19世紀の初演当時、傑作と絶賛され、大変な人気を誇り、歌劇場の重要なレパートリーであったそうです。
それがなぜ忽然と消えてしまったのか。マイアベーアの作品同様、壮大長大なグランドオペラが上演困難になっていった事情はわかりますが、それだけではないでしょう。

私にはむしろ、こんな重いテーマのオペラが当時大人気で頻繁に上演されたことの方が不思議です。
タイトルから想像つく通り、ユダヤ教徒とキリスト教徒の確執が描かれています。音楽はとても叙情的でそれはそれは美しいのですが、しかしそこで歌われている内容は異教徒に対する憎悪や怨念であり、やりきれない復讐劇なのです。

アレヴィ自身ユダヤ人だそうですが、このオペラを見る聴衆の大部分もキリスト教徒もしくはユダヤ教徒であったでしょうに、彼らはいったいどんな思いでこれを見たのでしょう。
自分とは違う方の宗教の教徒にも共感と哀れみを持ち、異教徒間の争いの愚かさが共通認識であったのなら、その後のナチスを生む時代よりよほど寛容で進歩的だったと思いますが・・

このオペラで最も有名なのは、4幕でエレアザルが歌う「ラシェルよ、主の恵みにより」というテノールのアリアで、この歌だけは今も頻繁にコンサートなどで歌われます。哀切ながら美しいメロディーで、まさかこんなに壮絶な状況での歌とは知りませんでした。
キリスト教徒への復讐に燃えるエレアザルが、愛する娘を復讐の犠牲に死なせるべきか、助けるべきか、と苦悩する歌なのです。

ストーリーはイル・トロヴァトーレ(ヴェルディ)に似ていて、その男女が逆版です。憎い仇の子供(赤ん坊)を拾って我が子として育てた親が、その子を実の親に殺させることで復讐を果たすという壮絶な話。
あのおっかないアズチェーナさんに相当する復讐の権化が、偏屈なユダヤ男のエレアザルで、犠牲になるのが「ユダヤの女」(実はキリスト教の枢機卿の娘)ラシェルです。

最後は油が煮えたぎる釜に投げ込まれて処刑されるという陰惨な話だからこそ、優美な音楽を温かく歌ってほしい作品です。
エレアザルとラシェル以外にも、ラシェルの恋人レオポールやその婚約者ユードクシーなどの美しい歌がたくさんあり、また合唱もグランドオペラらしく豪華でとても素晴らしいです。

この作品は20世紀に長いこと上演されませんでしたが、ニール・シコフによって数十年ぶりに復活され、DVDも発売されています。彼もまたユダヤ人で、しかも聖歌隊の家系だそうですから歌うべくして歌った役です。
もうそのハマり具合ときたら、ハマりすぎていて怖い!! どこから見ても執念深いユダヤの老人そのもので、70代くらいに見える外見から艶やかなテノールボイスが出てくるから驚くのですが、実は当時まだ50代前半だったので、現役バリバリで何の不思議もありません。
彼は若い頃はホフマン物語歌いとして有名で、私もCDで随分お世話になりましたが、後半生はこのエレアザルがライフワークになっているようです。

あらすじ (ユダヤの女)

ユダヤ人の彫金師エレアザルは、かつてローマで異教徒として迫害され家族を殺されたことを深く恨んでいました。逃げる途中で焼かれた家から赤ん坊を救いだし我が娘として育てていましたが、それはかつて自分を迫害したキリスト教徒ブロニの子供でした。
エレアザル父娘が移り住んだ地でもキリスト教徒からの厳しい目は続いていましたが、ブロニは妻子を失って神に救いを求め、その地で寛大なキリスト教の枢機卿になっていました。安息日に仕事をしていたエレアザルがキリスト教徒に死刑を迫られると、その場にブロニが現れ群衆に彼を許すよう諭しますが、その時にお互いローマでの過去を確認します。
娘のラシェルは美しく成長し、恋人のサミュエルを父に紹介します。しかし実はサミュエルはその国の皇太子レオポールで、婚約者の王女ユードクシーがおり、身分と名前を偽りユダヤ教徒を装ってラシェルと付き合っていたのです。
不吉な予感に怯えていたラシェルは、彼にキリスト教徒であると打ち明けられショックを受け、それでも恋を貫こうと2人で逃げようとしますが、そこにエレアザルが現れ激怒。ラシェルが切々と慈悲を請いなんとか父が2人の結婚を認めたとたんに、しかしサミュエル(レオポール)は「それはできない」と拒絶し逃げ去ります。

その晩、王女がお忍びで訪ねてきて、婚約者にプレゼントする宝飾品をエレアザルに依頼します。届けに行った王宮で、サミュエルの姿を見たラシェルは激昂し、その場で彼と自分の不義を暴露し、場は凍りつきます。
異教徒間の不義は死罪とされており、二人ともが投獄されますが、レオポールを深く愛するユードクシーに彼を助けて欲しいと繰り返し懇願され、ラシェルはついにあれは嘘だったと証言します。
死罪が決まったラシェルをなぜか哀れに思う枢機卿ブロニは、エレアザルに改宗すれば助けられると告げます。迷うエレアザルですが、先祖からの神を捨てることはできないと死を選び、ラシェルが処刑される瞬間、ブロニに彼女が彼の娘であることを告げて復讐を果たし自らも処刑に向かいます。



お薦め動画(ユダヤの女)

●これが有名なエレアザルのアリア 「ラシェルよ、主の恵みにより」"Rachel, quand du Seigneur" ニール・シコフ



●ラシェルのロマンス Il va venir!(あの人が来る!) 2007年 パリ アンナ・カテリーナ・アントナッチ
レオポールとの逢瀬の前に、不吉な予感に慄いて歌う



●王女ユードクシーのアリア 2007年 パリ アニック・マシス 婚約者への一途な思いを歌う。



●ラシェルとユードクシーの2重唱 2007年 リトアニア国立歌劇場
レオポールを助けるために虚偽の証言をしてほしいと懇願する王女と抗うラシェル



●全曲 2003年 ウィーン国立歌劇場 指揮:スーテイ、ニール・シコフ、クラッシミラ・ストヤノヴァ
(この公演は日本語字幕付きのDVDも発売されています)



●全曲 2015年 ミハイロフスキー劇場 指揮:フレデリック・シャスラン、ニール・シコフ、



●全曲 2016年バイエルン国立歌劇場 指揮:ベルトラン・ド・ビリー、アレクサンドラ・クルジャク、ロベルト・アラーニャ
カリスト・ビエイトの緊迫感溢れる現代的演出。単にキリスト教とユダヤ教の対立という限られた人の憎悪、復讐話にとどめるのではなく、現代社会のすべての民族に共通する、自分たちの主張の盲信、他者の排斥という、まさに今の世界の問題として提示しています。
(3幕フィナーレのコンチェルタート)




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