オペラ Q&A
オペラが好き、というのは、同好の士以外には言い難いもので、例え言っても「へえ〜」で終わってしまうことが殆どです。
でも、中には素朴な疑問で会話を継いでくださる貴重な方もおり、そんな時に私がよく聞かれる質問・疑問についておこたえしようと思います。
Q.オペラは死にそうな人や重病の人が大声で歌ったりするところが不自然で苦手です。
A. オペラの歌は、単にセリフにメロディーがついているのではありません。”魂の発露”が歌として表現されているのです。だから、体力があるかどうかは関係がなく、むしろナイフが胸に刺さっている人や、肺を病んで言葉もしゃべれないような人ほど、朗々と高く歌い上げるのは当然なのであります。
また同様に、秘密の独り言を大きな声で歌ったりしても、当然、すぐ隣の人に聞こえることは決してありません。
Q.絶世の美女が太っていたり、可憐な少女が顔のシワがひどかったりが気になってたまりません。
A. おっしゃる通りです。20世紀にはレコードが普及して音だけで聴く愛好家が増えたせいで、「歌さえ上手ければルックスや演技力は不問にする」という不文律ができ、マツコデラックス級のお姫様にもブラボーの嵐を送らなければいけませんでした。
しかし21世紀、映像の時代となった現在はだいぶ違ってきています。最近の公演を見てください。太ったヒロインなど殆どいませんし、その役の生き写しのような適役ばかりです。
そもそも19世紀当時も、オペラは見て聴いて楽しむエンターテイメントでしたので、容姿も美しい歌手は当然人気があったのです。
ただし、やはりオペラの主役は歌。最初は「太ったおばさん」が気になっていたのに、ドラマが進むにつれ見事な歌唱で役に同化し、まさに椿姫や蝶々夫人にしか見えなくなってくるところもまた、オペラの素晴らしさです。
Q.ストーリーがくだらないのが多くないですか?しかも最後はみんな死んでしまいます。
A. オペラのストーリーは便宜的なものだと思ってください。人間の愛や欲望や悲しみを表現するために、あるストーリーに仮託しているのであって、登場人物のアリアは、すべての人間の心の叫びなのです。話の筋自体はどうでもいい、といっては言い過ぎですが、表現の内容が重要なのです。
最後に死んでしまうのは、慣れればどうってことはありません。1:魂が浄化された 2.美しいまま永遠のものとなった 3.すべて終わった のどれかだと思って納得してください。
Q.演出が変すぎて理解できず、しらけてしまいます。
A. 確かにエログロ系や必然性のない組み合わせはどうかと思います。ヒロインが素っ裸になったり、魔笛が歌舞伎風になってたりするのは褒めている人は少ないです。
しかし、挑戦的な演出がなくなってしまったら、オペラにもカビが生えてしまいます。前衛的な演出の中にも見事に芸術的なものもありますし(ファウストのマクヴィカーのバレエなどがよい例です)、正統的な演出であっても、現代の息吹をふきこんでこそ生き生きとした舞台になります。
変すぎる演出は、それらの成功例の中に咲いたアダ花と思って諦めてください。
Q.拍手をする時としない時の違いや、タイミングがわかりません。
A. 聴かせどころのアリアの後では拍手をします。ソロでなくてもアリア的な2重唱、3重唱、4重唱・・・などでも拍手をします。合唱だけの場合は拍手しないこともありますが、バレエの後はします。
拍手が熱狂的で鳴りやまなかったりすると、その場で再度アンコールを歌ってくれたりすることも(ごく稀にですが)あります。
昔は、歌い終わるか終わらないかの時からブラボーと大喝采を浴びせるのが通と思われていましたが、最近では完全に歌い終わって後奏も終わってから拍手する場合が多くなっているようです。
でも、交響曲のコンサートなどではフライングの拍手やブラボーは厳禁ですが、オペラの場合はこの限りではないと思います。特に、素晴らしく盛り上がるアリアの後に後奏があるようなケースでは、歌が終わった後にずっと待っているよりも、後奏にかぶせて思い切り拍手した方が盛り上がりますよね。(例えばホフマン物語のオランピアのアリアで超絶技巧の最高音で終わった後や、トゥーランドットの「誰も寝てはならぬ」の感動的熱唱の後などは、後奏と拍手はかぶってよいと思います!)
それから、メト(ニューヨークのメトロポリタン歌劇場)では、「舞台装置に拍手をする」といってヨーロッパ人たちは笑います。幕が開いたとたんに絢爛豪華なセットに思わず、うわ〜って拍手してしまうのは、微笑ましくてなかなかいいと思うのですが、本家の方たちからするとおかしいらしい。
まあアメリカ人からしたら、「こんな豪華なセットはヨーロッパじゃないでしょ」と言いたいかもしれませんが、そういうメトもリーマンショック以降はメセナ衰退ですっかり財政が厳しくなったそうで、以前のような金にもの言わせた豪華さはなくなってしまいました。
いずれにせよ、温かい拍手はする方もされる方も、最高のものですね。
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