ギヨーム・テル(ウィリアム・テル) ロッシーニ
Guillaume Tell (Rossini)
作品紹介(ギヨーム・テル)
ロッシーニは、もちろんイタリアのベルカント・オペラの作曲家ですが、彼の最後のオペラであるこの「ギヨーム・テル(仏語読み)」は、他の作品とはかなり趣を異にしており、フランス語で書かれた壮大なグランド・オペラ形式のロマンティックな作品で、この作品だけは「フランスオペラ」に分類してもよいと思うのです。
グランドオペラの創始者であるマイアベーアは、この「ギヨーム・テル」を見て衝撃を受け、大変影響を受けているそうで(実際かなりパクっている!)、この作品があったからこそ、その後のフランスのグランドオペラがあると言っても過言ではないのではないでしょうか。
「ウィリアム・テル」と言えば、よく知られているのは息子の頭上のリンゴを弓矢で射落とすエピソードと、序曲の「スイス軍の行進」の♪パカパッ、パカパッ、パカパッパッパッ・・という元気なメロディーですが、そののどかで牧歌的なイメージと実際のオペラの内容は全然違うのだから驚きです。5時間超の物語は、民族の対立や犠牲など重いテーマの劇的なストーリーで、ロッシーニがこんなロマン的オペラを作っていたなんて、ロッシーニファンもあまり知らないんじゃないかしらん。
何しろ5時間超の大作なので滅多に上演されることはなく、されても以前はイタリア語の短縮版が主だったのですが、近年はフランス語原典版での上演が続き復活機運が高まっています。
アリアや重唱はどれも劇的で、ふんだんな合唱は合唱が主役かと思うほど美しく、1幕と3幕とに2回も入る長大なバレエは生き生きと闊達で見ごたえ満点! とまさにグランドオペラを堪能できる作品です。
歌はベルカント様式ですが、随所にまさに今ロマン派が萌芽する!という風情の瑞々しい叙情性があり、その点でオペラ史上の重要な作品なのではないか、と思うのです。
アリアで有名なのは、マティルドの「暗い森」(恋人のアルノルドを森で待つ歌)や、テルの「動くんじゃないぞ」(リンゴを射落とす前に息子に語る歌)、アルノルドの「先祖から受継ぎし家」(戦の前に実家を訪れ思い出を歌う)などですが、他にも2幕のアルノルドとマティルドの愛の2重唱や、テルとアルノルドとヴァルターの男声3重唱(アルノルドが父の死を知り祖国愛を誓うシーン)、フィナーレの大合唱なども大変素晴らしいです。
あらすじ(ギヨーム・テル)
14世紀、オーストリア統治下のスイスは、総督ゲスレルの圧政に苦しんでいました。テルは祖国スイスの独立を願い、長老メルクタールの息子アルノルドに蜂起を持ちかけますが、アルノルドはオーストリアの王女マティルドと密かに愛し合っており祖国への愛との板挟みになります。しかし父がゲスレルに殺されたことを知り、マティルドに別れを告げ祖国のために戦う決意をします。
人々が踊りに興じる祝祭日、テルはオーストリアに敬意を払わなかった罪で捉われ、テルが弓矢の名手であることを知ったゲスレルは、息子の頭上のリンゴを射落とせば許そうと提案します。そんなことはできないと苦悩するテルですが、勇敢な息子ジェミイに励まされて見事にリンゴを射落とします。しかしもし失敗したらゲスレルを射るつもりであったことが知れて捕らえられます。
護送される船から脱出したテルはジェミイに渡された弓矢でゲスレルを射殺し、アルノルドたちもオーストリア軍に勝利します。マティルドはアルノルドへの変わらぬ愛を告げ、人々はスイスの解放を喜び自由を歌いあげます。
お薦め動画
●有名な序曲です。 2014年 バイエルン国立歌劇場
序曲自体が4部構成のドラマティックな構成になっていて、有名なのは(3)と(4)。
(1)夜明け:0:00~、 (2)嵐:2:39~、 (3)牧歌:5:24~、 (4)スイス軍の行進:8:00~
●2幕 マティルドのアリア "Sombre foret" (暗い森) マリーナ・レベッカ
●2幕 アルノルドとマティルドの2重唱 グレゴリー・クンデ、ダニエラ・デッシ
やっぱりクンデは素晴らしい!ベルカントテノールでかつグランドオペラを得意とする彼にうってつけの役です。
なんで王女様がただの田舎の若者に・・と普通は疑問を抱く設定も、クンデならナットク。デッシーとの息の合いっぷりもさすがプロ。
●3幕 リンゴを撃ち落とすシーン ミヒャエル・フォレ 2014年 バイエルン国立歌劇場
息子に励まされ、頭上のリンゴを射る決心をするテル、そして・・・見事に割れる仕掛けもお見事!
●上記のシーンのテルのアリア "Sois immobile" (動くんじゃないぞ) トーマス・ハンプソン 2003年 パリ
ハンプソンの優しい誠実系テルがいいなあ。
●4幕 アルノルドのアリア "Asile héréditaire" (先祖より受継ぎし家) グレゴリー・クンデ
●4幕 フィナーレ 2003年 パリ・オペラ座 トーマス・ハンプソン、マルチェロ・ジョルダーニ
神々しいハープに導かれた「リベルテ(自由)」の大合唱による大団円です。
●全曲 1995年 ロッシーニ・オペラフェスティバル
グレゴリー・クンデ、ミケーレ・ペトゥルーシ、ダニエラ・デッシ
クンデのヒロイックな歌唱が素晴らしい!ジェミイ役のソプラノも適役のチビなのになんと立派な歌唱だこと。
バレエも大変見事です。美しいソロのバレリーナは、世紀のプリマ、アレッサンドラ・フェリさん。男性プリンシパルはこれも有名なホセ・カレーニョ。
(1幕) 2:40~、(バレエ) 群舞54:49~、パ・ドゥ・ドゥ1:06:30〜、(2幕) 1:32:05~
(3幕) 0:35~、(バレエ) ソロ18:27~、群舞29:20〜、(4幕) 1:05:30~
●全曲 オランダ国立歌劇場 ジョン・オズボーン、マリーナ・レベッカ