オランジュ音楽祭2012 トゥーランドット (R.Alagna)
「終わり良ければすべて良し(Tout est bien qui finit bien)」、なのでいいのですが、いや〜この数日は本当に眠れない日々でした〜
初めてのトゥーランドット、そしてオランジュ音楽祭の大舞台、しかもフランス全土にTVで生中継、という中での危機的状況は、もう歌手生命が終わるかもしれないと思うほどだったのです。
もともとリハーサルの時から、facebookでアラーニャの近況を読んでいた時点で、いつもと違うなとは思ったんです。いつもの余裕しゃくしゃくな感じとは違って、かなり緊張してるような不安を感じてるような。
公演は7月28日と31日の2回だけなのですが、1回目が終わった時点でfacebookを開くと、画面いっぱいの何やら声明文にギクッとしましたよ。よからぬ内容に違いない・・・
恐る恐る読んでみると、1回目の公演が失敗であったことに対する釈明が書かれていたのです。インプラントの影響で感染症になり調子が悪かったこと(昨秋のパリでのファウスト公演直前に歯が抜けちゃった話は、楽団員のブログで読んでたのだけど、インプラントしたのね・・あれはリスクが大きすぎるわ〜)、全幕歌える状態ではなかったけれど、代役がいない状況で聴衆や共演者を失望させたくなかったからキャンセルはしなかったこと・・・
彼の悔しさがにじみ出る文章でした。
最初のフランス語の文に、「すぐ英訳してアップする」と注釈までつき、仏英両方で掲載。たくさんの”ロベルト、元気を出して”という励ましのコメントが投稿されていましたが、そこから「誰も寝てはならぬ」の最後のハイノートが出ずに歌い切れなかったらしいことが読み取れました。
フランスの評論でも酷評されていて、もう彼の声は終わった、みたいな、31日は歌うのか、歌わないのか、歌うのは無理だろうのような書かれようでした。31日はTV生中継だし、私も歌うのは無理なのかも、公演自体行われるのか・・と不安な2日間を過ごしました。
トゥーランドットは好きな曲だけど、やはり彼には重すぎるのだ、アラーニャにはやっぱりフランスオペラのようなリリックな曲がいいのだ。。。ロメオとか、ウェルテルとか、ロドルフォとか・・・しかしそれにはもう若くない・・
それに、彼のホームグラウンドであるオランジュに、もう出れなくなってしまうかも・・
そして前日の夜、またfacebookに彼のメッセージが投稿されました。明日の晩に会いましょう。もし何かあった時のために、代役が待機してくれることになり安心であること、今は穏やかで自信に満ちた気持ちであること、多くの支援に感謝します、と。
とりあえず、歌うと決めてくれただけでも嬉しかった。あとは健康が回復してくれることを祈るのみ。facebookには続々と、”頑張れ”、”信じている”というコメントが投稿され続けました。
そして当日、日本では未明の時間帯だったので、私も眠れぬ夜を過ごした後に、朝恐る恐るfacebookを開くと、そこにはコメントにブラボー、ブラボー、ブラボーの嵐!!2度目の公演の大成功、素晴らしい歌を讃えるメッセージに溢れていたのです。私はもう、読みながら涙、涙・・・!
よかった、よかった、本当によかった、こんなハッピーエンドもあるのかと信じられないほどでした。やっとホッとして、安心して会社に行くことができました。
すぐにYouTubeにもアップされました。「誰も寝てはならぬ」鳥肌がたちましたよ。若干不安そうながらも、彼ならではの情感たっぷりの歌い回しで、堂々とした歌唱で、終わった瞬間の割れるようなブラボーの大歓声!!感極まった彼の表情。
そして翌日、facebookに次のようなメッセージが掲載されました。まずは美しいフランス語で。
"Chers Amis,
Merci infiniment pour tous vos messages de soutien et pour votre amitié, si intense, qu'elle me va droit au coeur. A très bientôt
Roberto"
親愛なる皆さんへ、たくさんの温かいメッセージを本当にありがとう。あなたの強い友情は、私の心にまっすぐに届きました。またすぐお会いしましょう。ロベルト
例え何があっても、これからもずっと応援し続けようと改めて思った今回の騒動でした。
動画
●誰も寝てはならぬ 2012年7月31日 オランジュ音楽祭 ロベルト・アラーニャ
間髪を入れないブラボーがいいですね〜 歓声をおくってくださったフランスの皆さんありがとう。
やっぱり歌の力はすごい!
若い頃より少し重くなったとはいえ、まだまだリリックな声が美しく、甘いカラフです。
●お聞きください王子様 ~ 泣くな、リュー 〜6重唱 〜 ドラ
このリューも健気でいいですね〜 カラフはさすがリューが惚れるだけの王子様オーラが。
この衣装と髪型はなかなか素敵だと思います。意外にアラーニャに合ってる役だった!
●リュー デスシーン 涙、涙・・・なんて美しいオペラなんだぁ〜!
●3幕 フィナーレ
いつも、ラストは捨てられて哀れに泣く役が定番のアラーニャですので、こういうラストはちょっとコソバユイですね・・ でも実に美しいフィナーレ。今までの名カラフ歌いは、英雄的でドラマティックなタイプばかりだったけど、アラーニャの優しく温かいカラフは叙情的ですごくいいと思います!
今まで、トゥーランドットの映像はメトのドミンゴとマルトンのがベスト、と思ってたけど、これを見たらこっちのがよくなっちゃったなあ〜 こんなリリカルな繊細なカラフ、実はこっちの方がプッチーニ的じゃない!?
●全曲
●おまけ1 フランスの動画サイトDailymotionにはこんな動画も・・・(アラーニャに見入るフランスの幼児)
●おまけ2 トゥーランドットといえば、日本人はこれ! 荒川静香さん金の演技
これも何度見てもジーンときます。演技はもちろん最高ですが、曲との相乗効果も感動的〜
●おまけ3 誰も寝てはならぬ 録音風景(2003年)