ロベルト・アラーニャ (テノール)
Roberto Alagna 1963年生まれ
ロベルト・アラーニャは、貴重なフランス語ネイティブのスターテノール。
その美しいフランス語と、voix du soleil(太陽の声)といわれる明るく輝くような声、そして叙情的な表現力で、フランス物では右に出る人はいません。
今まで(20世紀は)一流の演奏家によるCD録音等は、殆どがフランス語が母国語でないテノールによって歌われてきましたから(いわゆる3大テノールやクラウス、ゲッダなど。フランス人もアラン・ヴァンゾやシャルル・ビュルル等はいましたが、あまりご存知ないと思います)、アラーニャによって初めて「完璧に正しく明瞭なフランス語」で歌われた、といって過言ではなく、それだけでも大変価値あることです。
特にアラーニャのフランス語は、実にくっきりクリアな発音で、字幕がなくても言葉が明瞭に聞き取れ(これって意外にないんですよ)、フランス語独特のRの発音や淡い母音の発音が、夢のように甘く美しい!
フランス語のR(口蓋垂摩擦音)は、歌として響きを作ることがとても難しいため、オペラではフランス人歌手であっても巻き舌のRで代用することが多いのですが(もちろん外国人はみな巻き舌)、アラーニャの巻き舌でないRによる明晰なディクションは、フランス語オペラに現代的な響きをもたらしました。
あるインタビューで(聞き手もフランス人)、「あなたの歌の最も印象的なことの一つが素晴らしいディクション(発音・言葉使い)。どうしてそんなに完璧に精密な発音が得られたのか」と問われて、「子供の頃オペラを聞いて、言葉が聞き取れないことにイライラした。もし自分が歌うなら言葉がわかるように歌いたいと思った。作品は言葉を通して聴衆に伝えられる。同じ音楽でも楽器は言葉を語れないが、人間は語れる。これは奇跡。言葉はとても大切だ」と語っています。
フランス語と共にイタリア語も母国語なので、その両オペラがレパートリーで、仏語・伊語ともにクッキリ明晰な言葉の美しさは本当に素晴らしいと思います。発音そのものといい、メロディーへの言葉ののせ方といい、外国語として歌っている歌手には絶対に及ばない、本場の歌手ならではの美しさです。
フランスオペラでは特にロミジュリ、ファウスト、カルメン、ウェルテルの4本は何度も演じており、もうアラーニャでなきゃイヤ!というほどの圧倒的なハマり役で、言葉の美しさだけでなく役作りの深さも群を抜いています。ホフマン物語も若い頃の素晴らしいCD録音がありますし、マノンはネトレプコとのケッサク映像があります。
有名な作品だけでなく、埋もれたフランスオペラの発掘にも力を入れており、またイタリアオペラの仏語版(原典版のドン・カルロスやルチアの仏語版)など、貴重な録音も数々残しています。
”フランス人テノール”と紹介されることもあり、生まれと育ちはフランスで、今もパリ在住、facebookなども全部フランス語で書いていますが、ご両親がシチリア島出身のイタリア人で、気質的にもルックス的にもやっぱりイタリア男。 私の好みとしては(誰も聞いてないと思うけど)、本当はもっとフランス的な男性の方がタイプなのですが、でもアラーニャは別格です。
あの輝かしい美声で、そして母国語の正しく美しいフランス語でグノーやビゼーやマスネやペルリオーズを歌ってくれるのですから、それはもう胸が打たれます!
艶のある高音や、デリケートな優しさも素晴らしいけれど、甘い声のリリックテノールでありながら男らしさがあるところがいいですね。 独特の歌い回しや演技力も素晴らしく、常に全力で心をこめた演技は感動的です。
特に「情けない男」を演らせたら絶品です。
オペラの男声主役は「ダメ男」が多く、その哀れさはオペラの重要なシンパシーのポイントなのですが、でも本当にショボい歌手が歌うとイラっとくるだけだし、かといって立派すぎるテノールでも情感がなくてつまらないものです。
その点彼は、マザコン、ニート、優柔不断、ストーカーなどの情けないキャラを完璧に演じながらも、それでも最後までいい男!
≪オペラの”情けない男” 3分類≫
(1)捨てられて哀れに泣く・・・カルメン、ファウスト、ロンディーヌ
(2)自分の愚かさゆえ愛する人が死んで哀れに泣く・・・マノン、ボエーム、蝶々夫人
(3)自分も哀れに死ぬ・・・・・ウェルテル、ロミジュリ、ドン・カルロス
どうです、全てアラーニャの超ハマり役ばかり!
あなたはまさしくドン・ジョゼそのものです!というほどダメ男ぶりがハマってて、その悲痛な哀れっぽさはとても演技とは思えませんが、でもダメ男でありながら人間味に溢れた情感豊かな温かい歌で、隅々の機敏な動作や人懐こい表情もなんとも魅力的なのです。
(ちなみに「マザコン」はカルメン、「ニート」はロンディーヌとボエーム、「優柔不断」はファウストとマノンとドン・カルロス、「ストーカー」はカルメンとウェルテル、です)
英雄的な役やカッコイイ役もそれはそれで良いのですが(カヴァラドッシやラダメス、カラフなど)、でもそれよりも、今まで「オペラのサイテー男」と認識されていたドン・ジョゼやピンカートンが、本当は素晴らしく魅力的な役であったことを発見させてくれたという点に、アラーニャの魅力があるように思います。
彼の詳しいプロフィールや生い立ちは、こちらをご覧ください(スカラ座事件やゲオルギューとの諸々もこちらで)
→ アラーニャのプロフィール・生い立ち・エピソードなど
※このサイトでは、あっちこっちのページにアラーニャの動画を載せていますので、ご覧くださませ。
映像にはオランジュ音楽祭のものも多いですが、この毎年夏に南仏オランジュの野外劇場(古代ローマの遺跡)で開催される音楽祭にはアラーニャは20年前から毎年のように出ている常連で、彼のホームグラウンドともいうべき場所です。
2012年のオランジュ音楽祭についてはこちら → トゥーランドット(オランジュ音楽祭)
動画集(フランスオペラ)
※フランスオペラ以外の動画はこちらのページにも載せています → アラーニャ(プロフィールと生い立ち)
●最新映像 2015年4月 マスネ ル・シッド シメーヌとの2重唱
いかにもアラーニャらしい、輝く声と甘美な歌、美しいフランス語が素晴らしいシーンです。
●ウェルテル オシアンの詩 1997年
アラーニャはウェルテルのキャラではないのでは・・と思いきや、さにあらず!1998年の全曲盤CDは胸が痛くなる感動の名演で、彼の一番の適役では、と思うほど。若さ溢れる切々たる美声のナイーヴなウェルテルです。
●ファウスト 清らかなこの住まい 2011年 パリ・オペラ座
●マノン ラストシーン 2007年
ネトレプコとの共演による、素晴らしいマノン。このラストシーンの哀しい美しさは格別です。
●ル・シッド(マスネ)2011年 「おお、裁きの主、父なる神よ」
●ロミオとジュリエット Ah, leve-toi soleil ああ、太陽よ昇れ 1994年
若い! 可愛い!
●カルメン 花の歌 2004年 オランジュ音楽祭
●サムソンとダリラ 2018年 ウィーン国立歌劇場 ガランチャとのデュエット
●ホフマン物語
1996年のマイケル・ケイ版全曲のCD録音風景。このCDは本当に歴史的名盤です!
アラーニャのいかにも若く、ちょっとムキになった歌唱が実に愛らしいホフマン。
この動画も貴重ですね〜!アラーニャとヴァン・ダムが並んで歌ってるなんて感涙です!!
他にもデッセイ、ヴァドゥヴァ、スミ・ジョーという信じられない豪華キャストなんですよ
●アレヴィ ユダヤの女より Rachel, quand du Seigneur 1997年
コンサートなどでよく歌う彼の十八番のひとつです。
●グルック オルフェオとエウリディーチェ 2008年 ボローニャ歌劇場
弟のダヴィド・アラーニャ演出の大変斬新な公演です。
バロック音楽も、彼が歌うとロマン的ですね〜〜 妻を亡くした男の役が切ないです。
●アルファーノ「シラノ・ド・ベルジュラック」 全曲 2003年 モンペリエ歌劇場
アラーニャファミリーによる制作・演出です。彼の最高傑作のひとつ。
●フランスオペラではないのですが、大好きな映像なので。
プッチーニ 「ラ・ボエーム」より Che gelida manina (2005年 オランジュ音楽祭)
このオランジュの風に吹かれて歌うロドルフォは、ロベルトそのものに思えます。うっとり見惚れてるゲオルギューも、本当にこんな風に彼を愛してるんだな、と思います。
(パリを描いたボエームは、"名誉フランスオペラ"と呼びたいような作品です。
ここでのゲオルギューのミミも、素晴らしい名演です)
●ランメルモールのルチア(ドニゼッティ) フランス語版
アラーニャとナタリー・デセイのデュエット、夢の共演です。