アッシジの聖フランチェスコ (メシアン)
  Saint François d'Assise (Messiaen)


作品紹介(アッシジの聖フランチェスコ )

メシアン唯一のオペラであるこの作品は4時間半に及ぶ大作で、キリスト教をテーマにした楽曲を多く作った敬虔なカトリック信者であるメシアンが、自ら台本も手がけた彼の信仰宣言ともいえる作品です。

聖フランチェスコというのは12世紀イタリアのアッシジで生まれた実在の修道士だそうで、若き日に天啓を受けてからキリストの教え通りの行いを忠実に実践し、フランチェスコ会を創始して聖人に列せられたそうです。
その清貧で一途な行いや、鳥や動物にも説教をしたという逸話が、メシアンが自らと重なる部分を見つけたのかもしれません(メシアンは鳥を研究し、鳥の歌声をテーマにした曲を多く作っている)。フランチェスコの最期の長々しいセリフは、おそらくはメシアン自身の思いです。

オペラでは、フランチェスコが信仰に生きる決意をしてから、様々な苦難を経て、聖痕(キリストが十字架に架けられた際にできた傷と同じ印)を得、死ぬまでを、3台のオンド・マルトノや40近い打楽器を含む超大編成オーケストラで、壮麗に描いています。

「20世紀現代音楽」の典型ともいえる無調・非旋律的なリズムと色彩の音楽なので、全曲通して聴くのもなかなか難しい作品ですが、フランチェスコのテーマ(?)のような短い不安定な旋律が繰り返し登場し、オンド・マルトノの電子音や膨大な数の打楽器の乱打が鳥のさえずりや宇宙的な音を作り、ラストは大音響大合唱での壮大な歓喜の祝祭となります。


※なお「聖フランチェスコ」の名は、日本のカトリック教会では「聖フランシスコ」と表記統一されているそうで、またこのオペラの原題では仏語名の「聖フランソワ」となっています。以下のあらすじでは仏語名で表記し、( )内に伊名を並記します。



あらすじ

全3幕、8シーンで構成されています。
(以下のあらすじは、仏語版wikipediaのあらすじ を和訳し、一部加筆したものです)

【1幕】
●シーン1 「十字架」
修道の苦しみを訴える弟子のレオン(レオーネ)に、フランソワ(フランチェスコ)は、こう語ります。「キリストへの愛のためには、あらゆる苦しみや非難に耐えなければならない。しかしその十字架にこそ完璧なる喜びがある」と。

●シーン2 「讃課」
弟子たちによる夜明けの祈りの後、フランソワは一人残り、神にハンセン病患者に出会って彼らを愛することができますように、と祈ります(讃課)。

●シーン3 「ハンセン病患者への口づけ」
ハンセン病療養所では、皮疹に覆われた患者が病気に苦しみ怒りをぶつけています。フランソワは中に入り彼の傍に座って「愛する兄弟、神はあなたを愛しています」と優しく語りかけます。天使が窓に現れ「泣くのはおやめなさい。あなたの心は自分を責めるが、神の心はあなたの心よりも大きいのです」と言います。天使の優しい声とフランソワの温かさに感動した患者は呵責の念に打たれます。フランソワが患者に口づけをすると病気が癒えてゆき「奇跡だ!奇跡だ!主よ!」と患者は叫び、歓喜に踊り出します。フランソワの魂は彼自身に勝利したのです。

【2幕】
●シーン4 「旅人の姿をした天使」
ラ・ヴェルナの森に旅人の姿をした天使が現れます。天使が修道院のドアをノックすると、恩寵のような偉大な音が響きます。弟子のマッセ(マッセオ)が扉を開くと、天使は弟子のエリー(エリアス)に救霊予定説についての質問をしますが、彼は答えることを拒み天使を追い出します。天使は再度ドアをノックし、弟子のベルナルドに同じ問いをします。ベルナルドは賢い返答をします。天使が去った後、マッセとベルナルドは顔を見合わせ「もしや、天使だったのでは?」と言います。

●シーン5 「音楽家の姿をした天使」
天使はフランソワの元にも訪れ、ヴィオル(弦楽器)を演奏します。その音色はとても心地よく、フランソワは天国の至福を感じます。

●シーン6 「小鳥への説教」
春の森ではたくさんの小鳥たちが歌っています。フランソワと弟子のマッセは鳥たちに説法をし、厳粛な祝福を与えます。鳥たちはそれに大合唱で応えます。イタリアに住む頭が黒いウグイスのような鳥たちだけでなく、ニューカレドニア近くのイルデパン島など、遠い外国に住む鳥もいて、世界中の鳥たちが喜びを歌いあげます。

【3幕】
●シーン7 「聖痕」
夜のヴェルナの森、岩の洞窟の中でフランソワは一人です。巨大な十字架が現れ、合唱が歌うキリストの声が聞こえます。十字架から5条の光線が飛び出し、フランソワの両手両足と右の脇腹を打ちます。天使が修道院の扉を叩いた時のような力強い音が響きます。この五つの傷は、キリストが受けた傷と同じ聖痕として、フランソワの神聖の証です。

●シーン8 「死と新生」
フランソワは死に瀕し、地面に横たわって弟子たちが周りを囲んでいます。愛した全ての人に別れを告げ、最後の詩として太陽の賛美歌「姉妹の体の死」を歌います。弟子たちは詩篇141を歌い(まるで読経のようです)、ハンセン病患者や鳥たちも訪れます。天使が現れフランソワを讃えます。フランソワは最後の言葉を言います。「主よ!音楽と詩が私をあなたの許へ導きました。どうぞ私を照らし、解き放ち、あなたの溢れる真実で永遠に私を眩惑してください!」 フランソワは死に、鐘が鳴り、全てが消えます。合唱が復活を賛美する中、フランソワの体に光が当たると、その輝きはまばゆいばかりに極限まで高まり、幕が下ります。



お薦め動画(アッシジの聖フランチェスコ )

●1985年ザルツブルグ音楽祭のコンサート形式・抜粋上演(約半分)のライブ録音です。 フィッシャー=ディスカウの美声が素晴らしい!キリスト役にもピッタリのディスカウの慈悲深い声が聴きものです。
シーン3(ハンセン病患者への口づけ)、シーン6(小鳥への説教)、シーン7(聖痕)、シーン8(死と新生)



●3分で見るトレイラー 2011年 バイエルン国立歌劇場 指揮:ケント・ナガノ、主演・ポール・ゲ
グロい演出が賛否両論だったプロダクションですが、3分で全体像を垣間見ることができます。



《1983年初演時の映像》
パリ・オペラ座 指揮:小沢征爾、主演:ジョゼ・ヴァン・ダム、天使:エダ=ピエール
今から34年前、若い小沢征爾と若いヴァン・ダム、中世演出のエネルギーに満ちた世界初演です。知的なフレンチ・バリトン(ベルギー人ですが)のジョゼ・ヴァン・ダムは当に適役。


●2幕 シーン6 「小鳥への説教」


●3幕 シーン7 「聖痕」


●3幕 シーン8 「死と新生」 





ジョゼ・ヴァン・ダムは2004年にもフランチェスコを歌っています。初演時から20年過ぎ、キャリア晩年での再演です。
●1幕 シーン1 「十字架」


●2幕 シーン5 「音楽家の姿をした天使」


●2幕 シーン6 「小鳥への説教」


●3幕 シーン7 「聖痕」



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