にんじん王 (オッフェンバック)
   Le Roi Carotte (Offenbach)


作品紹介(にんじん王)

100作以上もあるオッフェンバックのオペレッタは、その後ほとんど上演されなくなっていた作品でも、ときどき世界のどこかで蘇演され、埋もれていた作品の素晴らしさに驚愕することがあります。

この「にんじん王」がまさにそうで、2015年リヨン・オペラ座での見事な蘇演は、国際オペラアワードの「再発見された作品賞(Rediscovered Work)」を受賞しています。またその後、2019年にはウィーン・フォルクスオーパーでも別プロダクションでドイツ語上演されて人気を博しました。

YouTubeに全幕出ている映像を見て頂ければ、その音楽の素晴らしさに必ずや驚かれることでしょう。次から次へと溢れ出る生き生きとした音楽の洪水!どの歌も、重唱も、合唱もすべてが闊達で楽しく、美しく、ロッシーニがオッフェンバックを「シャンゼリゼのモーツァルト」と呼んだことに全く納得することでしょう!

チャラい王子に代わって庭のニンジンが王様になってしまう・・というナンセンス系のメルヘン物語。
ドンチャン騒ぎあり、ほのぼのシーンあり、バカバカしさもあり、でも音楽は第一級!

メルヘン調な冒険譚は「魔笛」(モーツァルト)を思わせる雰囲気もあり、実際曲中にパパゲーノの笛の音が聞こえるシーンがあったりします。また超自然的作風と充実した音楽は彼の遺作「ホフマン物語」にかなり近く、ホフマン物語に似た曲があちこちで聞こえてきます。

例えば、冒頭の賑やかな酒場のシーンはホフマンのプロローグの酒場シーンにソックリだし、王宮の舞踏会シーンはオランピアのパーティシーンに似てるし、王女が王子を騙して指輪を奪うシーンは、ジュリエッタがホフマンを騙して鏡像を奪うシーンに超似てる!そして軽薄な王子を見守る妖精ロバン・リュロンは、まるでホフマン物語のニクラウスそのものじゃないですか!

まだまだ似た部分はたくさんあり、傑作「ホフマン物語」は彼の唯一のオペラとして特異な存在なのではなく、その何年も前からこのにんじん王のような似た作品を作っていたのです。

初演時は4幕構成で6時間以上の超大作だったそうですが、それでも200回以上上演される大ヒットとなり、しかし長大すぎるためにその後3幕構成の短縮版が作られたそうです。近年の上演は3幕版を元に取捨選択しているので、ストーリーはだいぶ割愛されていますが、元々当時の世相や政治、流行り物などを風刺した内容であるため、現代に合った再編は必須でしょう。

ストーリーの多少のヘンテコさはありますが、登場人物それぞれにとても美しい歌があり、軽快な笑いの中で見事なアンサンブルや合唱がこれでもかと続く、オッフェンバック作品の中でも屈指の傑作であると思います。



あらすじ(にんじん王)4幕版

クロコディヌ国の王子フリドラン24世は放蕩三昧で金を使い潰してしまい、金持ち国の王女キュネゴンドとの結婚を企みます。学生たちで賑わう酒場に変装して紛れ込み、気の強そうな王女と初対面、結婚の同意をとりつけます。しかしお披露目パーティの最中、先王に恨みを持つ魔女コロカントの呪文によって庭の土の中からニンジンが現れ、我こそがが王だ!と名乗りをあげます。最初は「なんて汚い、みすぼらしい」と笑っていた人々が、魔女が呪文を唱えるごとに「なんんて素敵、なんて魅力的!」に変わっていき、ついにはキュネゴンドまでが「なんて素敵!」とにんじん王を称賛し、皆がフリドランを糾弾するに至り、フリドランは妖精ロバン・リュロンに助けられて城から遁走します。

フリドランに恋する夜露姫(ロゼ・デュ・ソワール)は、魔女に幽閉され6年も塔に閉じ込められ悲しく歌っていますが、ロバン・リュロンに助け出されてフリドラン一行に合流します。彼らはロバン・リュロンの師キリビビの助言により、にんじん王から王位を奪還すべく魔法のランプの力で古代ポンペイにソロモンの指輪を探しに行きます。ヴェスヴィオ火山の噴火直前のポンペイで古代人と交渉し、何とか魔法の指輪をゲット。

祖国に戻ると、にんじん王が君臨し、キュネゴンドが妃になっています。フリドランはキュネゴンドに会って復位を訴えますが、彼を愛するふりをした彼女に逆に魔法の指輪を奪われてしまいます。失意のフリドランは魔女によって虫の国や猿の国に送られて次々に苦境に陥りますが、夜露姫が願いが叶う四葉のクローバーを使って献身的に助けます。

にんじん王の統治下で国は乱れ、インフレと重税に苦しむ民衆の不満が高まるにつれ、にんじん王が次第に萎びてきます。キュネゴンドが尻を叩いて励ます歌を歌う甲斐もなく弱ってゆくニンジン。夜露姫がクローバーの最後の葉を使ってにんじん王を倒そうとすると(最後の葉を使うと夜露姫は絶命する運命)、そこに猿の王が乱入して来てにんじん王の羽飾り(威厳の象徴)を奪い取り、にんじん王はニンジン(野菜)の姿に戻ります。帰って来たフリドラン王子を民衆は歓呼で迎え、フリドランは夜露姫と結婚、キュネゴンドはサッサと実家に帰りましたとさ。(3幕版ではストーリーが短縮されています)



お薦め動画

2015年 リヨン・オペラ座の素晴らしい蘇演!
今回も天才ロラン・ペリーの演出と、チャーミングなヤン・ブロンの主演です!皆ハマり役の熱演だけど、にんじん王役クリストフ・モルターニュの怪演は彼ならではでお見事。
セリフの量も適度で、次々と素晴らしい音楽で繋いでいく圧巻の名演です!

●全曲

【名シーンの索引】
00:07:56・・・酒場で学生たちの賑やかな合唱(ホフマン物語のプロローグに似てる)
00:14:00・・・ロバン・リュロン(学生に変装した妖精)の自己紹介の陽気な歌
00:20:58・・・キュネゴンド(隣国のお転婆王女)の自己紹介の歌
00:26:08・・・マーチ(フリドラン&合唱)
00:30:00・・・幽閉された夜露姫の悲嘆の歌(ホフマンのアントニアに似てる)
00:34:08・・・「転がれ糸玉」夜露姫とロバン・リュロンのメルヘン風素敵な2重唱
00:43:22・・・宮廷の夜会(ホフマンのオランピアのパーティに似てる)
00:47:36・・・にんじん王登場、楽しい!
00:50:40・・・「我こそはにんじん王」のクプレ、キレッキレで素晴らしい!
01:01:16・・・鎧・甲冑たちが放蕩王子を責める歌(マイヤーベーア風荘厳な合唱)
01:09:28・・・ポンペイの街に着いての4重唱(ホフマンの終曲のように美しい)
01:14:35・・・ポンペイの古代人たちの生き生きした合唱
01:20:50・・・古代人たちに現代人の文明の利器汽車を自慢する歌を歌う
01:30:50・・・行商人になりすましたロバン・リュロンたちの陽気な歌
01:36:22・・・キュネゴンドがフリドランを騙して指輪を奪う(ジュリエッタのシーンに酷似)
01:48:00・・・虫の国の虫たちの合唱(マーチ)序曲にも入ってる名曲
01:54:46・・・瀕死のにんじん王をキュネゴンドが叱咤激励する歌
01:59:59・・・「ああ、なんて政府」インフレや重税を嘆く民衆の合唱



●トレイラー



●キュネゴンドがフリドランを騙して指輪を奪うシーン(ホフマン物語でジュリエッタがホフマンを騙して鏡像を奪うシーンにとても似ている)



●2019年 ウィーン・フォルクスオーパーでのドイツ語上演トレイラー
この上演もまたとっても楽しそうー!ストーリーはリヨン版とは違うシーンも選択されているようです。





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