シブレット (レイナルド・アーン)
Ciboulette (Reynaldo Hahn)
作品紹介(シブレット)
19世紀フランスでオッフェンバックによって創始されたオペレッタは、その後20世紀にアメリカや英国でミュージカルへと姿を変えてゆきますが、この『シブレット』はその境目頃の1923年、オペレッタ最後期の知られざる傑作です。
「シブレット」というのは主人公の元気印の娘が自分でつけたニックネームで、"ciboulette" とは日本ではチャイブと呼ばれるハーブのこと。「変な名前」と言われても、本人は「歌のように明るく響くでしょ!」とお気に入りなのです。
ストーリーは軽やかで他愛ないラブ・コメディーですが、ほのぼのして最高に楽しい!そしてフランス的な優美な旋律がとても洒落ています。
一度聴いたら忘れられないメロディーがたくさんあり、2013年オペラ・コミック座の上演(DVDになっている)では、カーテンコールの最後にフィナーレの歌を客席と一緒に大合唱していて、アットホームでいいなあ!と感動してしまいました。
数年前に『ラ・ラ・ランド』というミュージカル映画が、過去の名作ミュージカルのオマージュとして名場面を模したシーンをたくさん入れ込んでいて、往年のミュージカルファンは「あ!あのシーンだ!」と楽しめて話題になっていましたが、このシブレットはそのアイデアを100年先取りしたオペラ版。あちこちに名作オペラのネタがひそませてあって、オペラファンにはたまりません!
例えば・・1幕でゼノビーとロジェが再会するシーンでは『マノン(マスネ)』でマノンがサン・シュルピス修道院に押しかけて元カレと再会する劇的な曲が歌われるし、3幕でアントナンが絶望して遺書を書くシーンでは『ウェルテル(マスネ)』でシャルロットがウェルテルの手紙を読むシーンの悲愴な音楽が使われるし(しかも最後の終わり方が長調になってて可笑しい!)、デュバルケが若き日の悲恋を語るシーンでは「・・彼女の手は凍えるようで、マフを欲しがった。コッリーネは外套を持って出て行き・・」と続き、彼が『ラ・ボエーム(プッチーニ)』のロドルフォのその後の姿であることが判明!・・・という具合。
歌はもう、どれもこれも素敵な楽しい歌ばかりなのですが、特にシブレットとアントナンの2重唱「Comm'la vie vous semble..」と、フィナーレの歌「Amour qui meurs..」が最高!でも他の歌も全部素晴らしいので、もっともっと皆に聞いてほしい作品だなあ!と思います。
あらすじ(シブレット)
金持ちのボンボン馬鹿息子のアントナンは、恋人の高級娼婦ゼノビーに振り回された揚げ句、体よく振られ失意の朝帰りの途中、早朝のパリの野菜市で元気な野菜売り娘シブレットに出会います。野菜を売り損なったシブレットにお金を援助してやり、恋人を寝取られたと愚痴るアントナンにシブレットも同情して、二人はなんかいい雰囲気に。その日21歳になったシブレットは、育ての親の伯父に結婚相手を決めろと迫られますが、実は8人も婚約者がいるけど(村の独身男性全員!)誰も愛してなくて、占い師が告げた運命の恋人を待っています。市場の支配人デュパルケは居合わせたアントナンをちょうどいいと結婚相手に仕立てあげますが、シブレットに惹かれつつゼノビーも諦めきれないアントナンは去ってしまいます。
嘆き悲しむシブレットに、デュパルケは自分の青春時代の悲恋を語り(ここで彼がラ・ボエームのロドルフォであることが判明)、「君ならパリに出てスターになれるぞ。そうすればアントナンも振り向いてくれる」と誘って「コンチータ・シブレーロ」というスペイン人歌手に仕立てあげます。パリの社交場でのデビューの日、デュパルケがこっそりアントナンを呼んでいる前でスペイン人になりきって見事に歌うシブレット。アントナンはデュパルケから「シブレットは行方不明になった」と聞かされて絶望し自殺しようと思っていましたが、美しいシブレーロに心惹かれアタック。シブレットは愛しいアントナンとの再会に大喜びで正体を明かし、諸々のいきさつが占い師の変な予言とドンピシャ符合して、二人は結ばれめでたしめでたしとなります。
※原語リブレットはこちら → reynaldo-hahn.net
お薦め動画(シブレット)
2013年 パリ、オペラ・コミック座での上演がとても素晴らしい!(日本語字幕付きDVDが出ています)
何と言っても主役3人がハマり役すぎ。シブレット役のジュリー・フックスはお茶目なお転婆娘を元気いっぱい演じてチャーミングだし、馬鹿息子アントナン役のジュリアン・ベール君はヘタレキャラがピッタリで情けなくて可愛い!デュパルケ役のジャン=フランソワ・ラポワントはいつもながらダンディーで素敵で、彼なら「ロドルフォの老成した姿」と言われても全然納得です!
演出は人気コメディアンでもあるミシェル・フォーで、彼自身も伯爵夫人役で出演しています。彼を初めたくさん出てくる道化役は皆、古き良きフランスのバカバカしい可笑しさ満点で、ノスタルジックで楽しくて、面白くて、美しくて、ホロリとして、絶賛お薦めです。
(動画は細切れですが、ジュリーさんのアカウントを中心に、そこにないシーンは2015年再演時のメロディ・ルルジャンさんの動画を載せています)
●「私を驚かせたのは春」"C'est le printemps qui m'a surprise"
シブレット登場シーン。野菜を積んだ荷馬車に乗って、遅刻だけど元気いっぱい。
●「私はシブレット」"Moi, j'm'appelle Ciboulette"
シブレットの陽気な名乗りの歌。ジュリー、カミーユ、マリー、アデル・・・等々フランス女性の名前を次々あげて、どれもダサいけどシブレットは陽気で男の子にも人気の名前よ!と。
●「人生はどんなに甘美でしょう」"Comm'la vie vous semble avoir d'la douceur"
出会ったばかりのアントナンと惹かれ合い「これは友情」と言いながらいい感じになる、とても美しい二重唱です!
●「鈴蘭」"Muguet, muguet..."
森で摘んだばかりの瑞々しい鈴蘭を讃える歌。お転婆ながらスズランのように素朴でフレッシュなシブレット!
●「私たちは素敵な旅をした」"Nous avons fait un beau voyage"
パリの朝市から馬車で帰宅したシブレットとデュパルケの陽気なデュエット。ソプラノとバリトンの二重唱として知られている曲のようです。
●「ここはバンリュー(郊外)」 "C'est sa banlieue"
ここはパリじゃないけど遠くもないわ、半分パリで半分田舎、バンリューよ。私たちも「愛」じゃないけれど、バンリューよ。という歌がとても洒落てます!
●「あなたが二コラだったら」"Si vous étiez Nicolas"
二コラに成りすまして婚約したけれど、本当に二コラだったら良かったのに、でもあなたは二コラじゃない・・と、お転婆娘とヘタレ君の可笑しくも切ない掛け合い。
●連帯の歌 "J'aime pas faire des manières..."
兵隊たちとやって来た恋敵ゼノビーに対抗して「連帯の歌はこうやって歌うのよ!」と威勢のいい歌がカッコイイ!
●(セリフのみのお笑いシーン)スペイン人「コンチータ・シブレーロ」に化けて、出来ないスペイン語をメチャクチャに話すコント。
●「愛は終わり、愛は過ぎ去り」 "Amour qui meurt, amour qui passe"
コンチータ・シブレーロ歌手デビューの歌にみんなウットリ。素敵なオペレッタですね!
●オペラ・コミック座 トレイラー