シラノ・ド・ベルジュラック (アルファーノ)
Cyrano de Bergerac (Franco Alfano)
作品紹介(シラノ・ド・ベルジュラック)
「シラノ・ド・ベルジュラック」というのは、元は有名な演劇作品です。
フランスの劇作家エドモン・ロスタンの戯曲で、世界中で繰り返し上演され、映画やミュージカルにも何度もなっており、日本では江守徹、平幹二朗、緒形拳、鹿賀丈史ら、錚々たる俳優がシラノ役を主演している名作です。
このオペラは、そのフランス語の戯曲をほぼそのまま忠実にリブレット化し作曲されています。
アルファーノはイタリアの作曲家ですが、このオペラはフランス語の美しい韻文が生かされた、とても演劇的で、フランス的な作品です。
現在このフランコ・アルファーノという作曲家が最も知られているのは、実は自身の作品ではなく、プッチーニの遺作「トゥーランドット」の補筆者としてでしょう。
リューの死までを作曲して亡くなったプッチーニに代わり、ラストのトゥーランドットとカラフの2重唱の音楽を補作しています。
プッチーニのモチーフを使用しながらも、不協和音も使用したより現代的な音楽に、「この部分はプッチーニではない」と拒否する人もいるでしょうが、今となってはこのアルファーノのメロディーも含めて「傑作トゥーランドット」、と言うしかありません。
アルファーノ自身の作品が上演されることは滅多にないのですが、この「シラノ・ド・ベルジュラック」はDVDにもなっており、一聴して「ああ!あのトゥーランドットのラストの音楽だ!」と思わせる響きに溢れています。
美しい不協和音とフランス語の響きが絡み合って何とも言えぬ哀愁が漂い、シラノの切なさと心意気とが胸に沁みる、とても叙情的で美しい佳作です。
あらすじ(シラノ・ド・ベルジュラック)
稀代の剣豪であり詩人・哲学者のシラノは、その大胆不敵な行動の裏で、実は自らの大きな鼻の醜さがコンプレックスであり、愛するロクサーヌに思いを告げることができません。そればかりかロクサーヌから別の男(美男のクリスティアン)を愛していると打ち明けられ、手助けを求められてしまいます。当のクリスティアンもロクサーヌに思いを寄せているのですが、「僕は口下手で無学で、愛を語る術を知らない」と言われ、シラノの詩人魂に火がつきます。「君の美貌と、僕のエスプリを合わせ、二人でロマンのヒーローになろう!」と目を輝かせます。
ロクサーヌの家に告白に行ったクリスティアンは、案の定言葉に詰まって立ち往生し、ロクサーヌに愛想をつかされかかります。すかさず物陰から代わりに愛の言葉を語るシラノ。その詩的なロマンティックさにロクサーヌは陶然と愛に墜ちます。
やがてシラノとクリスティアンは戦場へ赴き、戦地からシラノは毎日愛の手紙を代筆し送り続けます。手紙に感激したロクサーヌは危険を顧みず戦地を訪ね、クリスティアンに「あなたの心を崇拝します。例えあなたが醜くても愛するでしょう」と告げます。その言葉に、彼女が本当に愛しているのは自分ではなくシラノの「言葉」だと知ったクリスティアンは絶望して前線に出て戦死してしまいます。
彼の死を悲しんだロクサーヌは修道院に入りますが、それから15年、シラノは毎週土曜には彼女を訪れ世間話をしては慰めます。ある日暗殺者に襲われ大怪我を負ったシラノは、それを隠してロクサーヌの許を訪れます。「古傷が痛むだけだ」と言うシラノに、「私の古傷・・」とロクサーヌはかつてのクリスティアンの手紙を取り出し、シラノはそれを読み始めます。夕闇がせまり、手紙が読めるはずもないほど暗くなってもシラノが読み続ける声を聞いて、ロクサーヌは「・・あなただったのですね!」と全てを悟ります。本当に愛していたのは彼の心だったことを知ったロクサーヌに見守られ、怪我が致命傷となったシラノは「嘘偽りや偏見に叩かれても俺は戦うさ!全てを奪われてもたった一つあの世まで持っていくものがある・・・俺の羽飾り(心意気)だ!」とつぶやいて息を引き取ります。
(※さらに詳細なあらすじは、こちらのページをご覧ください)
お薦め動画(シラノ・ド・ベルジュラック)
≪2003年 モンペリエ音楽祭≫
●シラノの即興のバラード(決闘のバラード) ロベルト・アラーニャ
貴族の芝居に乱入したシラノが子爵と決闘しながら即興のバラードを詠う場面。
シラノ役アラーニャの洒脱な演技と歌唱、颯爽とした剣さばきが素晴らしい!戯曲でも人気のシーンですが、美しく韻が踏まれたフランス語のバラードはそれは魅力的です。
●全曲 ロベルト・アラーニャ、ナタリー・マンフリーノ
アラーニャの美しいフランス語の朗唱と、エスプリ溢れる知的な演技がまったく素晴らしい傑作です。哀切なシラノに涙、涙。
ロクサーヌ役のマンフリーノの楚々とした美しさが花を添え、実力者を揃えたオールフランス人キャストと情緒溢れる演出も見事!
(名シーン)
・06:50~ (1幕)上記の見事なシラノのバラード
・1:01:45~(2幕)ロクサーヌのバルコニー下から、口下手なクリスティアンに代わってシラノが愛を語る、長い朗唱の名シーンです。
・1:21:20~(3幕)戦場で疲れ果てた兵隊たちをシラノが励まし、皆が望郷を歌う場面。合唱が美しく切ない。
・2:02:48~(4幕)修道院のロクサーヌを訪れたシラノが、かつて自分が書いたクリスティアンの手紙を読む場面。
≪2007年 バレンシア、ソフィア王妃芸術宮殿≫
by プラシド・ドミンゴ、ソンドラ・ラドヴァノフスキー
こちらはドミンゴ66歳の時の上演。2幕バルコニーシーン。老醜シラノの迫力があります。