悪魔のロベール 詳しいあらすじ
Robert le diable STORY
あらすじ(悪魔のロベール)
(1幕)
シチリア島パレルモの港近くの酒場、大勢の騎士が王女御前の槍試合のために集まり、試合を前に酒を酌み交わしています。「人生は快楽、大事なのは酒・ギャンブル・女さ!」と陽気に歌い、居合わせたロベールとその友人ベルトラム(実は悪魔)を酒席に誘います。
「おい、何か面白い話をしてくれ」と請われた旅人のランボーは、故郷の「悪魔のロベール」の噂話を歌い始めます。
「昔ノルマンディー公の娘ベルトは、王子を装った悪魔と恋に落ち、息子ロベールが生まれた。ロベールは粗暴で手当たり次第婦女子を襲う悪魔だ、気をつけろ!」と面白可笑しく歌うのを聞き、ロベールは怒りに震えだし「俺がそのロベールだ!貴様、殺してやる!」と立ち上がります。
ランボーは慌てて「どうぞお許しを、私は婚約者と共にあなたに手紙を届けるためにノルマンディーから来たのです」と懇願し、可愛らしい婚約者が現れます。若い娘に興奮する騎士たちに、「乳兄妹のアリスじゃないか!彼女に手をだすな!」とロベールはアリスを守ります。
「ああ、お兄様!私はお母様の頼みで参りました。お母様が死の間際に愛する息子に伝えておくれと、天国から見守っている、いつか相応しい時にこの手紙を読むように、と私に託されたのです」と言うと、ロベールは母の死にショックを受けつつも「まだ俺は・・その相応しい時ではない・・」と受け取りを拒みます。
そして身の上話を始めます。故郷を追われてシチリアに流れ着き、王女イザベルと恋仲になったが、愚かにも王にたてつき騎士達と決闘になってしまった。絶体絶命の時にベルトラムが助けてくれて勝つことができたが、それ以来イザベルに会えない、と嘆くと、アリスが彼女に私が手紙を届けてあげましょうと、と言ってくれます。
そこへ現れたベルトラムを見て、アリスは青ざめます。村の絵画にある、大天使ミカエルが組み敷いている悪魔の顔にそっくりだ、と。
ロベールは善に惹かれる気持ちと悪に惑わされるの間で揺れる、と悩みますが、ベルトラムに「私の固い友情を疑うのか。こんなにあなたを思っているのに。さあ運試しに騎士たちと賭博でもしよう」と誘われて、そうだこの世で一番大切なのは快楽だ!と叫んで賭博に興じ、金も武具も全てスッカラカンになってしまいます。
(2幕)
お城では王女のイザベルが一人嘆いています。「お父様は私の気持ちなど考えずに結婚相手を決めようとしている。愛してるのはロベールなのに・・つれないロベール、愛の夢は消え去ってしまったわ・・」
お城には嘆願書を持った市民が王女の許を訪れているのを知り、アリスはそれに紛れてロベールの手紙をイザベルに渡します。手紙を読んだイザベルは喜び、「ああロベール、早く来て、私は幸せだわ!」と歓喜を歌います。
ロベールが現れます。「どうぞ私の苦悩を知り、過ちをお許しください」と訴えると、最初こそ不実を責めていたイザベルもすぐに折れて愛の二重唱になります。
「槍試合の始まる合図だわ!」「ああ僕は剣も失ってしまった・・」「さあこの剣で、私が用意しておきました」「・・・これで必ず勝ってみせる!」「ああ、希望と幸福に震えるわ!」
しかし王女との結婚を賭けた槍試合が始まってもロベールは現れません。ベルトラムに「グラナダの王子に真剣勝負の決闘を申し込まれた」と騙されて、森に行ってしまったのです。
「ああ、闘いのラッパは鳴ったのに、ロベールあなたは来ない。こんなに愛が呼んでいるのに、なんて残酷なの!」とイザベルは失望し、ベルトラムは「ロベール、おまえは私のものだ・・!」と微笑します。
(3幕)
暗い岩山でランボーが婚約者のアリスを待っていると、ベルトラムが現れます。
「僕たちは今日結婚するんです。お金はないけれど、幸せな家庭を持てるはずです」と言うランボーに、ベルトラムは金貨の包みをプレゼントします。驚いて感謝するランボーに、「結婚を早まることはない。君はもう金持ちなのだから女など選び放題だ。快楽こそが人生」と悪魔がささやくと、ランボーはすっかり心酔し「あなたの言う通りです!人生を楽しもう!」と金を手に遊びに行ってしまいます。
「ふん、人間を騙すなどチョロいものだ。これでまた一人、征服することができた・・・しかしあんな男を笑っている場合ではない、もうすぐ私の運命も決まるのだ」
洞穴の奥からは地獄の主たちの歌声が聞こえます。ベルトラムは「ロベール、大切な息子よ。俺はおまえによって初めて愛というものを知った。かつて天を裏切ったように、おまえのためなら地獄さえ裏切れる・・」と言って洞穴から地獄へと降りてゆきます。
アリスがランボーを探してやって来ます。「約束したのに、ひどいわ。こんな淋しい場所に一人にして」と怯えたアリスは、「マリア様、どうぞ誠実な恋人をお守りください」と歌います。地面が揺れて雷鳴が響き、洞穴の奥から地獄の声が「ロベール!ロベール!」と呼ぶのが聞こえ驚愕したアリスが恐怖に震えながら神に祈っていると、ベルトラムが戻って来ます。
「地獄の判決が下った・・今日中にロベールを悪魔の世界に引き入れなければ、永遠に息子と離れ離れになってしまう!」と呟いたベルトラムは、アリスに気づき「聞いたな?見たのだな?私の正体を知っているな?秘密をバラせばおまえも家族も死ぬぞ!」と恐怖に凍りつくアリスを脅します。
そこへ失意にうちひしがれたロベールが来ます。槍試合に出場できず名誉を失い、頼れるのはベルトラムだけだと泣きつくロベールに、全ての願いを叶えられる魔法の枝を教えます。
「天に背いて見捨てられた修道院の聖ロザリーの墓石に、永遠に緑の葉を茂らす魔法の枝がある。しかしそこに住まう尼僧の亡霊と言葉をかわせば死ぬため、勇気ある者にしか取ることができない」という話をすると、ロベールは怯えながらも最後には取りに行く決心をします。
ベルトラムは廃墟の修道院に行き、冷たい石の下で眠る罪を犯した尼僧たちに呼びかけます。
「私の声が聞こえるか尼僧たちよ、さあ起き上がれ、地獄の王の命令だ。今から来る騎士が枝を取るのを躊躇するなら、彼を誘惑して遂行させるのだ!」と命ずると、尼僧たちは墓の下から起き上がり、華やかなバレエを踊り始めます。(有名な「呪われた尼僧のバレエ」前半)
やがてロベールがやって来ます。魔法の枝を取ろうとしますが、恐怖と罪深さに躊躇し帰ろうとします。すると尼僧たちが現れ、美しく舞いながらロベールが枝を取るよう誘惑します(バレエ後半)。陶然としたロベールがついに枝を手に取ると、「これで彼はわれらのものだ!」という地獄の亡霊たちの勝利の雄叫びが響きます。
(4幕)
お城では結婚式をあげた若い男女が、祝福の花冠を贈ってくれた王女に感謝を捧げますが、イザベルの顔は晴れません。彼女の望まないグラナダの王子との結婚式が迫っていたのです。アリスが訪ねてきてロベールが行方不明であると知らされ、ますます不安になります。
人々が婚礼を祝う歌を歌い出した時に、ロベールが現れます。修道院で奪った魔法の枝をかざすと、魔法の力で人々は皆眠ってしまいます。
ロベールはイザベルだけを眠りの魔法から解くと、目を覚ましたイザベルは悪魔的な笑いを浮かべるロベールを見て慄きます。「イザベルは俺のものだ、さあおいで!」と言うロベールを、「なんていう目で見るの!」と拒絶します。
「愛するロベール、神聖な愛を誓ったのに、どうぞ分かって・・・どうぞお慈悲を、あなた自身のために、そして私のために!」と切々と懇願するイザベルに、ついに折れ、そして絶望したロベールは、死んだほうがましだ、と魔法の枝を折ってしまい、魔法が解けて目覚めた兵士たちに追われて逃げて行きます。
(5幕)
司祭が祈りを捧げている教会に、追われたロベールとベルトラムが逃げ込んできます。
魔法の枝を折ってしまった今、できる手は「我々の仲間になることだ」とベルトラムに言われ、契約書に署名をしようとしますが、その時幼い頃母が歌ってくれた聖歌が聞こえてきて躊躇います。
「ベルトラム、おまえはいったい何者なのだ?」と問うと、ついに「ランボーが語った通り、私こそがおまえの父、悪魔だ」と正体を明かします。
「大切な愛する息子よ、私にはおまえしかいない。しかし憐れな父を捨ててイザベルと結婚するのもおまえの自由。だが真夜中までにおまえが署名をしなければ、私たちは永遠に別れる運命なのだ」という父の言葉にロベールの心は揺れ、署名をしようとします。
そこへアリスが駆けつけ、クライマックスの3重唱になります。
「王女様が結婚式の祭壇でお待ちです。グラナダの王子は王女の心を知って身を引きました」
「もう父と約束してしまったんだ」
「愛の誓いは?お兄様の名誉は?」
「もっと大切な義務がある」
「ああ神様、どうぞあなたの御心がお兄様に届きますように」
「愛するわが息子よ、おまえだけが私の生き甲斐、どうか私の願いを聞き入れておくれ」
「なんという苦悩、胸がはりさけそうだ!」
「もう時間がない、さあ、署名を!」
「お兄様、これがお母様の手紙よ。『愛する息子よ、私は天国からいつもおまえを見守っています。私を誘惑した悪魔の言葉に従ってはいけません』!」
「ああ死にそうだ、どうすればいいんだ・・!」
「わが息子よ、苦悩する私の願いを叶えてくれ、お願いだ!」
その時、真夜中を告げる鐘が鳴ります。
「真夜中だわ、お兄様は救われた!」
ベルトラムは地獄の劫火に飲み込まれて消えてゆきます。
イザベルが現れ、アリスや人々とともに合唱します。
「ロベールは救われた。神に栄光あれ!」