フラ・ディアヴォロ(オベール)
Fra Diavolo, ou L'hôtellerie de Terracine (Auber)
作品紹介(フラ・ディアヴォロ)
「フラ・ディアヴォロ」というのは、神出鬼没の大泥棒、盗賊団のボスのニックネームで、イタリアの実在の山賊 Fra Diavolo(伊語で”悪魔の兄弟”の意)をモデルにしているそうです。
怖~い悪者だけど、粋でカッコよくてモテる系。
そんなカリスマ悪党を巡るドタバタを描いたこのオペラ・コミックは、明るく軽快なメロディーに溢れ、楽しさ満点! 19世紀前半のオペラ・コミックの代表作として絶大な人気を得た、というのもうなづけます。
オベールという作曲家は今でこそあまりメジャーではありませんが、パリ・オペラ座(ガルニエ宮)の正面に飾られた7人の偉大な音楽家の金の胸像は、モーツァルトやベートーヴェンと並んでオベールも据えられており、さらにはオペラ座近くに「オベール駅」「オベール通り」もあることからも、当時いかに人気絶大であったかが分かります。そして実際にそのオペラを聴いてみれば、これらの傑作が現在はあまり上演されないことの方が不思議に感じるでしょう!
日本では、大正時代の浅草オペラで上演され、特に「ディアボロの歌」は田谷力蔵がマントを翻して歌って大人気であったそうです。「『ディアボロ!ディアボロ!』の部分は、観客も唱和した」という記述もあり、そういう風にオペラを楽しむっていいなあ!と思います。
ディアボロの歌はゆったりした牧歌的なメロディーなので、作品全体をそういうイメージと思う人もいるかもしれませんが、実際には全体にキビキビ闊達で、超快速の多重唱が次々と繰り出される軽快さが特徴です。1幕の五重唱や、2幕フィナーレの7重唱など、コミカルで小気味よいアンサンブルは最高なので、是非聴いて頂きたいです!(下に最新動画を載せています)
あらすじ(フラ・ディアヴォロ)
舞台はイタリア、テッラチーナの宿屋。宿屋の主人マテオの娘ゼルリーヌは、衛兵隊長のロレンゾと恋仲ですが、父が選んだ金持ちの男と明日結婚させられることになり、ロレンゾは絶望しています。そこに到着した英国人のコックバーン卿とパメラ夫人は、道中盗賊団に宝石を奪われたと訴え、取り戻してくれたら多額の謝礼を払うと言います。衛兵隊長ロレンゾは、悪名高い盗賊フラ・ディアヴォロ一味に違いないと、彼らを捕まえに出発します。
そこに公爵を名乗る立派そうな男(ディアヴォロ)がやってきて、色目を使われマンザラでもないパメラ夫人と、不愉快がる夫。公爵は二人が盗賊ディアヴォロの被害に遭ったと聞かされ驚いてみせると、ゼルリーヌが恐ろしいディアボロの噂を語り始めます(ディアヴォロの歌。3番は公爵が歌う)。ディアヴォロの手下2人が宿泊客を装ってディアヴォロと合流、強盗の成果を報告しますが、宝石だけで多額の現金はなかったことを知ったディアボロは、パメラ夫人から現金を奪おうと甘いバルカロールを歌って言い寄ります。そこへロレンゾが帰ってきて、盗賊団を捕まえ宝石を奪い返したが、ボスは見つかっていない、と言ってボスを探しにまた出発。英国人夫妻は喜んで謝礼をゼルリーヌに渡し、皆が喜ぶ中ディアボロは復讐を誓います。
夜が更け、ゼルリーヌは寝支度をしながらロレンゾとの結婚を思い描いて幸せを歌い、眠りにつきます。ディアヴォロと手下の2人は、英国人夫妻から金を奪う手はずを整えながら、目撃者になるゼルリーヌも殺そうとしますが、ロレンゾが戻ってきて見つかってしまいます。しかし、ロレンゾもコックバーン卿も、公爵を間男と勘違い。双方がゼルリーヌとパメラ夫人の浮気を疑って、ロレンゾは公爵に決闘を申込みます。
翌朝、ゼルリーヌと金持ち男の結婚式が始まろうとする中、ディアヴォロは結婚式で村人がいなくなった隙に英国人夫妻を襲おうと計画しています。ゼルリーヌは何とか結婚式の前にロレンゾにプロポーズしてもらいたいのですが、誤解の解けぬロレンゾは拒否。しかし、村人に紛れ込んだディアヴォロの手下が昨晩ゼルリーヌが歌った歌を口ずさむのを聞き、彼らが怪しいと気づき2人はロレンゾに捕えられます。彼らが持っていた手紙を元にディアヴォロをおびき出し、ノコノコ現れたディアヴォロをロレンゾたちが一瞬で捕らえます。村人たちの勝利の歓声があがり、ディアヴォロの歌の合唱で幕が閉じます。
※原語リブレットはこちら → fra-diavolo(opera-arias.com)
お薦め動画(フラ・ディアヴォロ)
●全曲 2017年 ローマ歌劇場 ジョン・オズボーン、Anna Maria Sarra
とても貴重な最新映像。現代的な明るい演出で、オズボーンもディアボロの魅力十分。他の出演者も熱演です。
ただし本来のオペラ・コミック(セリフ入り)ではなく、レチタティーヴォになってるのがちょっと残念ですが。
(聴きどころ)ディアボロの歌:35:19~、1幕五重唱:31:12~、バルカロール:50:38~、2幕フィナーレ七重唱:1:40:29~
※ディアボロの歌の歌詞と訳を マイナーアリアの対訳集 のページに載せています。
●全曲(音声のみ)Kenneth Tarver、スミ・ジョー
こちらはセリフ入りで、オペラ・コミックの雰囲気が楽しい名演です。
●ディアボロの歌 "Voyez sur cette roche" マディ・メスプレ、ニコライ・ゲッダ
クプレの1番、2番をソプラノが、3番をテノール(ディアボロ)が歌います。
※ディアボロの歌の歌詞と訳を マイナーアリアの対訳集 のページに載せています。
●ディアボロの歌(日本語版) 藤原義江
原曲では1,2番をソプラノが歌いますが(3番のみテノール)、日本語版はテノールの名歌になっています。
田谷力蔵の十八番だったそうですが、YouTubeにないので藤原義江で。