ホフマン物語 版の経緯(年譜)
「歌えば死ぬ」運命の中、絶唱して死んでいったアントニアと同じように、オッフェンバックは傑作ホフマン物語の作曲と引き換えに、初演を目前にして無念の死をとげました。
初演時には無残に改変されたホフマン物語も、100年以上の時を経て、徐々にオッフェンバックが夢見た姿に近い形での上演、録音がされつつあります。どうかその歌声が、響きが、天国のオッフェンバックに届きますように・・・!
→ 作品紹介・あらすじ
→ ホフマン物語 版別曲目一覧
→ お薦め動画(新版:エーザー版、ケイ版、ケイとケック版 )
→ お薦め動画(旧版:シューダンス版)
ホフマン物語 年譜
※現在、主に上演・録音されている版は、大きく分けると下記赤字の「シューダンス版」、「エーザー版」、「ケイ版」、「ケイとケック版」の4種類です。ただし上演の都度、指揮者や音楽監督によって独自の折衷版が作られることが多数あります。
●1877年
脚本家ジュール・バルビエからホフマン物語オペラ化の権利を取得、作曲に着手
当初はゲテ座での上演を予定し、ホフマンはバリトンの声部だったが、後にゲテ座の破産によりテノールに変更
●1879年5月18日
オッフェンバックの自宅での音楽会でホフマン物語を初披露
この時点で「目玉の3重唱」や最後の合唱付きフィナーレの存在が確認されている
●1880年9月
オペラ・コミック座で舞台稽古開始
●1880年10月5日
オッフェンバック 死去(ピアノ譜と全体のスケッチはほぼ完成していたと思われる)
未完だったオーケストレーションは、遺族の依頼によりギローが補作
●1881年2月10日
初演 (パリ オペラ・コミック座)
本来の構想から大幅に改編されて上演されたが、成功をおさめる
- ジュリエッタの幕がまるっと削除(一部未完、長すぎるなどの理由で)
- ホフマンの舟歌のみアントニアの幕に挿入され、舞台裏から歌われる
- 歌手の都合でミューズと二クラウスを別人が歌い、意味不明に
●1881年12月7日
ウィーンで再演。ギローらにより、ジュリエッタの幕が復活される
- ジュリエッタのアリアなどをカットし、大幅に短縮
- 短い幕として、アントニアの幕の前におかれる
●1887年5月25日
オペラ・コミック座の火災で、初演時の楽譜が消失
(・・・と長年みなされていたが、2004年にオペラ座で発見される!)
●1904年
モンテカルロで再演
劇場支配人のガンズブールが、ジュリエッタの幕補強のため2曲を追加
- ダペルトゥットのアリア「煌めけダイヤモンド」(オッフェンバックの「月世界旅行」の序曲のチェロ旋律を元に作る)
- ジュリエッタの幕ラストの合唱付き6重唱(ホフマンの舟歌を元に作る)
この2曲は、その後ずっと主要な曲のひとつとして上演され続ける。オッフェンバックの作でないことが判明した今日でも、それは変わらない。なぜなら、100年もの間歌われ、世界中の人に愛され続けてきたという事実が既にこの2曲を「ホフマン物語の歌」、に昇華させてしまっているから!
●1907年
上記のスコアがシューダンス社より「ホフマン物語 第5版」として発行。その後約100年にわたり、主にこの「シューダンス版」が上演され続ける。その間、様々な改訂版も現れるが(独自の校訂を追加した1958年フェルゼンシュタイン版など)、20世紀に主に上演されたのはこのシューダンス版である。
※シューダンス版の上演・録音は多数あり。 → お薦め動画1 1981年ROH 指揮:プレートル(ドミンゴ) など
●1970年
オッフェンバック子孫宅から、ピアノ伴奏譜、オーケストラ譜が大量に発見される。
●1977年
それを元に音楽学者フリッツ・エーザーが「エーザー版」を発行し(アルコーア社)上演
- 幕順を オランピア→アントニア→ジュリエッタに改め、下記の曲を復活
- プロローグのミューズのクプレ
- 二クラウスのクプレ(オランピアの幕)、二クラウスのアリア(アントニアの幕)
- 目玉の3重唱(オランピアの幕)
- 「煌めけダイヤモンド」を削除し、「回れ回れ鏡よ」
- ジュリエッタのアリア
- エピローグのミューズのソロとフィナーレの合唱
※エーザー版の上演・録音は多数あり。 → お薦め動画2 2010年 メト 指揮:レヴァイン など
●1984年
ガンズブール氏宅でコミック座のリハーサルでカットされた譜面が発見
音楽学者マイケル・ケイが「ケイ版」発行(ショット社)
※1989年 テイト指揮 アライサ主演でCDあり
※1993年 ケントナガノ指揮 リヨンオペラ座 DVDあり(抜粋) → 動画あり(でもこれは、演出がかなり変)
※1996年 ケントナガノ指揮 リヨンオペラ座 CDあり(全曲) → 曲構成もキャストも充実していてお薦め。 下記に音声あり
●1993年
ジュリエッタの幕のフィナーレのオーケストラ譜が発見
音楽学者ジャン・クリストフ・ケックが「ケック版」発行(ブージー&フォークス社)
- ジュリエッタの幕の合唱つきフィナーレ(従来の合唱付き6重唱とは相反する)
- エピローグのホフマンとステラの2重唱
●2004年7月
パリ国立オペラ資料倉庫で手書きのオーケストラ譜を発見。コミック座の火災で焼失したと思われていた初演の楽譜(カットされた部分を含む)
- 冒頭の短い序曲が、オッフェンバックの作でないことを指摘
●2005年
上述のケイとケックが協力し、「ケイとケック版」発行。
この版では、オッフェンバック自身が複数の曲を作っている部分に関しては、演奏者が曲を選択可能な構成になっている。このため、同じ「ケイとケック版」を使用しても、上演の都度曲構成が異なることになる。
現在ヨーロッパでは、この最新版であるケイとケック版の上演が主流になりつつあります。アメリカ(Met)では2015年現在もエーザー版が上演されていますが・・
※2010年 プラハ国立歌劇場 → お薦め動画2 に動画あり
※2013年 リセウ歌劇場 DVDあり (リヨンとの共同制作なので、2014年のリヨン来日公演はこれと同じプロダクションです)
ホフマン物語 全曲版のお薦めCD (ケント・ナガノ指揮、リヨンオペラ座)
1996年 リヨンオペラ座のケイ版のCDは、新版としての曲構成も良いのですが、歌手陣が最高の布陣ですごい!
ホフマンがロベルト・アラーニャ、悪魔4役がジョゼ・ヴァン・ダム、オランピアがナタリー・デッセイ、アントニアがレオンティーナ・ヴァドゥヴァというこれ以上あり得ない完璧な配役!(というか、完璧に私好み)
ジュリエッタのスミ・ジョーも信じ難いコロラトゥーラのアリアを完璧に歌っていて唖然だし、二クラウスのデュボスもフランス語がとっても美しく、脇役がまたミシェル・セネシャル、ガブリエル・バキエ、ルドヴィク・テジエ・・という愛すべきフランスの名歌手が勢ぞろい!・・・もう私の妄想キャスティングかと思うような夢のような演奏です。
●そのCDよりジュリエッタの幕抜粋(主にシューダンス版と違う部分を抜粋)
旧版ではジュリエッタの幕のフィナーレだった合唱つき6重唱の歌詞がシューダンス版とは違っており、その後に「voyez voyez・・」で始まる新版のフィナーレが新規に付加されています。