マノン・レスコー(オベール)
 Manon Lescaut (Auber)


作品紹介(マノン・レスコー)

マスネの『マノン』」とプッチーニの『マノン・レスコー』は有名ですが、それより30年も前に同じ題材をオベールが先にオペラ化しており、当時の人気作品だったそうです。

主役マノンの比重は他の2作品よりさらに大きく、マノンちゃんは出ずっぱりの歌いっぱなし。しかも音域はびっくりするほど高く(上のファまであるそうな)、どの歌もアジリタ尽くしの超絶技巧コロラトゥーラのオンパレード。こりゃ普通の歌手ではとても歌えないわけで、余程の適役が出現した時にしか上演できない作品のようです。

「マノン」と言えば、奔放な魅力とワガママ放題で男を破滅させる魔性の女、と思われていますが、このオベールのマノンはややイメージが異なります。むしろ美貌のおかげで愚かな男どもの欲望の餌食になり、不幸が続く中も無邪気に一途にデ・グリューを愛する健気さの方が勝っている!

マノンは別に悪くないのに、バカ男のせいで災難が振りかかり、頑張って後始末すれば、またさらなるバカ男どもが・・って感じ。その間マノンちゃんは宝石が溢れる公爵の部屋に一人残されても「素敵なダイアモンド・・見るだけでなく着けてみようかしら?・・だめ!神様が見ているわ!」って、プッチーニのマノンに爪の垢でも飲ませてやりたいですよ。

もう一つの違いは、お友達のお針子マルグリットが登場する点で(このオペラの独創)、真面目で質実な彼女は最後にはアメリカに移住して成功した恋人と結婚するのですが、その結婚式の日に、ルイジアナに流刑になった囚人マノンを発見し、絶望する彼女に自分の花嫁衣装を貸して逃亡を助けてあげるんです!(涙、涙・・)
ああ、ルイジアナ州が今もフランス語圏なのは、彼女たち移民者の子孫なのね!

オベールの音楽は、耳馴染み易く軽妙で、すぐに口ずさみたくなるような親しみやすいメロディーが特徴です。序曲も美しく、マノンの歌はどれも輝くように快活で、特に「笑いのクプレ」と呼ばれる投げ銭稼ぎに歌う陽気な歌 "C'est l'histoire amoureuse"(それは愛の物語)は、コロラトゥーラソプラノの歌としてコンサート等でも歌われます。

セリフ入りの「オペラ・コミック」として書かれているので、フランス語の粋なセリフがとても素敵で、是非フランス人の美しい言葉もお楽しみください。

あらすじ(マノン・レスコー)

エリニー公爵は街で会った美貌のマノンを気に入り、兄のレスコーに金で愛人になるよう持ちかけます。自分で働いたことのないマノンは、友達のお針子マルグリットが真面目に働きながら婚約者と愛を育む姿に感心し、自分も針仕事を試みますがすぐに飽きてしまい、恋人のデ・グリューたちと食事に出かけます。レストランでレスコーにすぐに返すと言われて財布を渡すと賭博で全部すってしまい、無銭飲食で捕まりそうになります。マノンが機転をきかせその場で美しい歌を歌って投げ銭を稼ぎ、これで払います!と言ったところに、デ・グリューが契約金を得ようと入隊してきたと戻ってきます。連隊長の公爵はシメシメと「もう契約は解除できない」と二人に告げます。

デ・グリューは入隊し、マノンは公爵の屋敷で愛人になるよう迫られますが、デ・グリューを愛しているからと断ります。デ・グリューが上官を殺害して脱走したという知らせが入り、公爵に愛人になれば彼を助けると言われマノンは仕方なく受け入れます。がそこに当のデ・グリューが現れて公爵と決闘になり殺してしまいます。いまわの際の公爵は愛し合う二人を許そうと言ってくれるのですが、ドサクサに紛れレスコーが宝石を盗み、その罪をマノンが着せられます。

アメリカ、ルイジアナの農場、マルグリットの婚約者はこの地に移住して努力の末成功をおさめ、奴隷たちが「ご主人様は良い方だ」と歌います。マルグリットもフランスから渡米し今日が結婚式という日に、フランスから流刑になった囚人たちが到着します。ズタボロの囚人の中にマノンを見つけたマルグリットは驚き、そこにマノンを追って密航して来たデ・グリューが現れ再会を果たしますが監視が引き離そうとします。見かねたマルグリットは自分の花嫁衣装をマノンに着せて食料を持たせ、花嫁のふりをして逃亡させてやります。しかし逃げる二人はすでに力尽き、灼熱の荒野でデ・グリューの腕の中マノンは息絶えます。助けに駆けつけたマルグリットたちの「愛は完結し、美しい夢の中あなたの魂は永遠になるでしょう」という優しい合唱の中、マノンの魂は昇天してゆきます。



お薦め動画(マノン・レスコー)

●全曲 1990年 パリ・オペラコミック座(日本語字幕付き)
エリザベト・ヴィダル、ルネ・マシス、アラン・ガブリエル、ブリジット・ラフォン

ヴィダルのマノンが素晴らしい名演。これだけの難役を軽々と嫋やかに歌いきり、コケティッシュな演技も魅力的!当時まだ30歳位だったヴィダルは若々しい声も傑出したテクニックも可憐な容姿も美しいフランス語もマノンにピッタリで、これ以上のハマり役はあり得ないでしょう!

(序曲)01:40~、 (1幕)10:20~、(2幕) 1:03:07~、(3幕) 1:48:13~



●1幕マノンの笑いのクプレ"C'est l'histoire amoureuse"「それは愛の物語」
兄レスコーが賭博で金を失い、食事代を工面するために歌う陽気なクプレ。ヴィダルのコロコロ転がる笑い声が見事!


●同じく笑いのクプレ ジョン・サザーランドの録音


●1974年 フランスのコロラトゥーラの歌姫マディ・メスプレで全曲録音もされています。
"Plus de rêve qui m'enivre" 最後に伸ばすのが最高音の「上のファ」です!



●2016年にベルギーのワロニー王立歌劇場で上演され、スミ・ジョーがマノンを演じています。既に50代半ばの彼女には果敢すぎる挑戦ですが、それだけ歌える歌手がいないのだと思います。
・全曲



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