血まみれの修道女 (グノー)
La Nonne sanglante (Gounod)
作品紹介(血まみれの修道女)
おどろおどろしいタイトルのせいで損をしている、と思われるこのオペラは、長年忘れられ捨て置かれていましたが、2018年にグノー生誕200年を記念してパリのコミック座で蘇演され、本場の気概を感じる渾身の名演はDVDにもなり、忘れられていた作品の真価を知らしめてくれました。
「血まみれの修道女」というのは古い城に現れる女性の幽霊のことで、中世ドイツの伝説が元になっているそうですが、「白衣の夫人」(ボワエルデュー)と同様に、19世紀当時に人気のあったホラー題材だったようです。
恋人と間違えて幽霊に愛を誓ってしまった、しかもその修道女が亡霊になった理由は、かつて自分の父が恋人だった彼女を裏切り殺したから・・という恐怖!
しかし、そんなオカルト話であってもグノーの音楽は美しく、彼の代表作である「ファウスト」や「ロメオとジュリエット」とよく似た甘美な旋律がとてもたくさん登場します。(この作品の方が先に作られています)
ロドルフ(テノール)のアリアは清冽に美しく、明るい合唱や華やかなバレエ音楽もあり、小姓(ソプラノ)のコミカルなクプレもあって、怖い怪談話を鮮やかに彩ります。
そして、グノーのどの作品にも共通することですが、敬虔なクリスチャンだったグノーの絶対的な信念として、フィナーレは神を讃え心を委ねて、清らかに幕を閉じます。
コミック座のDVDは、主役ロドルフを歌うマイケル・スパイアーズがとても素晴らしい! 若々しい真摯な声と、明瞭なフランス語ディクションが強く美しく、美男子というわけにはいかないけれど、ニコライ・ゲッダのようだな、と思ってしまいました。
アメリカ人ではありますがフランス語が堪能で、レアなフランスオペラをたくさん歌っています。(最近レアなフランス物といえば、このスパイアーズか、ジョン・オズボーン、ブライアン・イーメルの3択です!なぜか全員アメリカ人・・)
スパイアーズ以外の歌手、女声陣も魅力的で(パリジェンヌ風のキュートなアニエス、血も凍るド迫力の修道女、お茶目な小姓が可愛いアルテュール)、見応え満点のオススメDVDです。(しかも、日本語字幕もついている!)
今回の蘇演をきっかけに、どうかこの美しい作品が見直され今後も上演が続くことを祈ります!
あらすじ(血まみれの修道女)
【1幕】
11世紀のボヘミア、いがみ合い諍いを続けるモルダヴ家とリュドルフ家を和解させるために、隠修士ピエールはモルダヴ家の娘アニエスとリュドルフ家の長男の結婚を命じます。しかしアニエスは彼の弟ロドルフと恋仲。国のために犠牲になれと言われ絶望したロドルフは、アニエスに真夜中に一緒に逃げようと懇願します。「真夜中は血まみれの修道女が彷徨う時間」とアニエスは怯えますが、それを利用して修道女の格好で来れば誰も妨げない、と提案。霊への冒涜だと拒否していたアニエスも、親に勘当され追放される彼の姿に、ついに真夜中に行く約束をします。
【2幕】
ロドルフの小姓アルテュールが、ご主人の駆落ちの手筈を整えながら陽気に歌い、ロドルフも「もうすぐアニエスが来る」と希望を歌います。真夜中の鐘が鳴り、白い修道衣に血まみれのベールを被った修道女が現れます。恐怖を覚えながらもそれがアニエスだと信じ、永遠の愛を誓い指輪をはめるロドルフ。しかしベールを外した修道女はアニエスではなく、血まみれの亡霊が「あたたは私に永遠の愛を誓った」と笑います。
【3幕】
華やかなバレエ音楽と村人たちの合唱が結婚する男女を祝いますが、ロドルフは一人蒼ざめ怯えています。アルテュールが来て、兄が戦死したために2人の結婚が許されたことを報せますが、ロドルフは「修道女が毎晩現れる」と呻きます。その晩も現れた修道女は、彼女が亡霊になった理由を語り出します。かつて恋人が戦死し修道女になったが、実は彼は生きていて他の女と結婚するつもりで、邪魔な彼女を刺し殺した、と。「相手の男を殺してくれたらあなたを解放する」と言われロドルフは仇を取る約束をしますが、それが誰かは明日教える、と言われます。
【4幕】
結婚行進曲が鳴り渡り、ロドルフとアニエスの結婚式が始まります。両家の和解をピエールが祝福する中、そこに修道女が現れます。ロドルフにしか見えない修道女が指し示した復讐の相手は、なんと彼の父。衝撃と同時に、自分の幸福は父を殺さなくては得られないことを知ったロドルフは絶望し、結婚はできないと叫びます。その場は大混乱となり、両家の憎悪が再燃します。
【5幕】
リュドルフ伯爵(父)はこの悲劇は自分が過去に犯した罪であり、修道女が償いを求めていることを悟って深く悔います。そしてモルダヴ家の男たちのロドルフを殺す企みを耳にします。アニエスはロドルフの心変わりを嘆き、理由を問い詰めます。ロドルフは修道女のことを打ち明けますが、殺人者が父であることまでは言えず、なぜ仇を討たないと怒ったアニエスは、もうお別れと去ろうとします。そこに襲いかかるモルダヴ家の男たち。しかし、倒れたのはロドルフではありませんでした。我が身を犠牲にして息子を守った伯爵が「神よ、彼らに幸を、私には罰を・・」と言って息絶えると、その魂は空へと上ってゆき、修道女も静かに後に続きます。
※ 原語リブレットはこちら → アメリカ議会図書館
お薦め動画(血まみれの修道女)
●2018年 パリ・オペラコミック座 DVDトレイラー
合唱〜ロドルフのアリア(マイケル・スパイアーズ)〜アニエスのアリア(ヴァニナ・サントーニ) スパイアーズの素晴らしい声と表現力!
●2018年 パリ・コミック座
3幕 深夜に毎夜現れる修道女の亡霊が、ロドルフに彼女の過去(恋人に裏切られ殺された)を語るシーン。
●コミック座での蘇演を伝えるTVニュース映像(舞台映像あり)
●2幕 (音声のみ) 2008年録音CD
Voici l'heure... Prodige qui confond.. 深夜に落合う約束をした恋人が来るのを待って愛を歌うロドルフのアリア 〜 恋人の代わりに現れた血まみれの修道女に愛を誓ってしまう
●1幕 隠修士ピエールのアリア(対立し争う2家を諌める歌)
●序曲