天国と地獄(地獄のオルフェ) オッフェンバック
  Orphée aux Enfers (Offenbach)


作品紹介(地獄のオルフェ)

昭和世代には「カステラ一番♪」の文明堂のCMとして、若い世代には運動会の徒競走の曲として有名なこのフレンチカンカンが、こんなに素晴らしいオペレッタの中の曲であることは、意外に知っている人が少ないのです。このカンカン(地獄のギャロップ)は、終盤の地獄での全員での乱痴気騒ぎの曲ですが、オペレッタそのものは、とてもとても洒脱な逸品です!

オッフェンバックは、唯一のオペラ「ホフマン物語」が傑作として有名ですが、元来彼はオペレッタの作曲家であり、当時のパリの華やかな雰囲気をとてもよく伝える軽妙で笑いに満ちた喜歌劇こそが真髄です。
風刺の精神に満ち、洒脱な笑いに溢れ、パリのエスプリの香りを放つ底抜けに明るい作品で、当時のパリっ子たちを熱狂させました。

特に一番有名なこの「地獄のオルフェ」(邦題は「天国と地獄」で知られています)は、一瞬たりとも飽きさせない生き生きとした素晴らしい音楽の洪水で、しかもどのシーンも大笑いしてしまうという大変な傑作です。
彼のオペレッタを、軽薄なドタバタ劇と軽視する人もいますが、とんだトンチンカンな批評で、この笑いと活力とアイロニーに満ちた大人の楽しみは、極上の芸術と思います。

彼の音楽の特徴のひとつは、美しいメロディーや少し暗い哀しい曲調から、瞬時にピッと、軽快なワクワク心躍る音楽に切り替わるところで、その鮮やかさといったら! 一瞬でこの世は薔薇色、何も思い迷うことはないさ!という感じは、たまらない魔力です。

この「地獄のオルフェ」を見るうえでまず知っておいて頂きたいのは、これがギリシア神話を元にしたグルックのオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」のパロディだということです。夫婦の純愛劇の原作をダシにして現代を風刺、作中でグルックの有名なアリアを歌わせたりして、ニンマリさせられます。


元ネタ、グルックの「オルフェオとエウリディーチェ」のあらすじ

愛妻エウリディーチェが毒蛇に咬まれて亡くしたオルフェオは悲嘆し、彼女を取り戻しに冥界に赴き、神に懇願し、帰り道絶対彼女を振り返らないことを条件に許しを得ますが、耐えきれずにとうとう振り向いてしまい、彼女は息絶えます。しかし二人の愛を認めた神が彼女を生き返らせ、メデタシメデタシ。



あらすじ(地獄のオルフェ)

ヴァイオリン教師オルフェと妻のユリディス(エウリディーチェ)は倦怠期の夫婦。お互い飽き飽きして浮気をしています。オルフェはユリディスの愛人で羊飼いのアリステ(実は地獄の王プリュトン)をやっつけようとワナを仕掛けますが、毒蛇に咬まれて死んだのはユリディスの方。予想外の結果に喜んでしまうオルフェですが、そこに「世間」というオバサンが登場し、「妻が死んで涙も流さないなんて!」と大ブーイング。オルフェは世間体のために渋々、彼女を取り戻しに冥界に赴きます。

天国では、神々の王ジュピターも苦労しています。朝帰りする子供達、過去の浮気をなじる妻、しらばっくれても無駄よ!と詰め寄る女たち、こんなつまらない生活は飽き飽き!と抗議の大合唱・・・そこへオルフェが現れ、グルックのアリアを歌って妻を返してと訴えます。「それは地獄の王プリュトンの仕業だ。地獄へ行こう」「面白そう!私たちも連れて行って〜!」と皆で地獄に行くことに。

地獄ではユリディスが一人で退屈しきっています。ジュピターは美人と噂の彼女をモノにするため、蝿に変身して彼女が幽閉された部屋に鍵穴から忍び込みます。「まあ、なんて素敵な蝿さん」と大喜びのユリディスと懇ろになり、一緒に天国に行こうとしますが、プリュトンに見つかってしまいます。天国と地獄の面々入り乱れての乱痴気騒ぎの中、オルフェが現れて再度(渋々)妻を返してと訴えます。ジュピターは「では絶対に振り向くなよ」とお決まりのセリフで返したものの、本当に全く振り向かないオルフェにイライラし、ドカンと雷を鳴らすと驚いて振り向き、ユリディスはジュピターの許へ。これですべてメデタシメデタシ。



お薦め動画(地獄のオルフェ)

お薦めの動画は、なんといっても本場フランスの名門オペラハウス、リヨン歌劇場の1997年の名演。どこからどこまで素晴らしい傑作です!
歌手は全員驚くほど芸達者で面白いし、ローラン・ペリーの現代的な演出は粋でお洒落だし、ミンコフスキの指揮は生き生きと躍動感あふれ、楽しさ満点、この作品の決定版です。

ユリディスはフランスの歌姫ナタリー・デッセイ。素晴らしい歌声と完璧なコロラトゥーラだけでなく、コミカルな体当たり演技が圧巻。ジュピターはナタリーの実の夫ロラン・ナウリ、彼も大変芸達者で、二人の「蝿の2重唱」は呆れた名演です。他にもひと癖もふた癖もありそうな、いい味出してるプリュトンのフシェクール、爽やかイケメンで生きのよいオルフェのヤン・ブロン、キュートでお茶目なキュピドン(キューピッド)、女史風な世間のオバサンなどなど、フランスのオペレッタ界ってこんなに人材豊富なんだ!とまったく感心してしまう名演です。
なお、日本語字幕があった方が数倍楽しめますので、国内版DVDの購入を(わりと安いので)お薦めいたします。


●蝿の2重唱 ナタリー・デッセイ、ロラン・ナウリ
地獄に幽閉されて退屈したユリディスが、蝿に変身したジュピターとデキてしまうシーン



●3幕  地獄で退屈し、夫を懐かしむ歌 "Ah! Quelle Triste Destinée"



●4幕  地獄のギャロップ(フレンチ・カンカン)シーン



●天国にやって来た地獄の王プリュトンのクプレ。ジャン=ポール・フシェクールの名唱・怪演が面白すぎる!こういう道化役がいるところが、フランス大好き!



●こちらから全曲  1997年 リヨン・オペラ座
(1幕:原典版の序曲~ユリディスが地獄に連れ込まれ、オルフェが取り戻しを迫られるまで)

(※2幕、3幕が削除されてしまったので、また出たら追加します)

(4幕〜フィナーレ 地獄の乱痴気騒ぎとフレンチカンカン)



●序曲について
上記リヨンの上演では、序曲に「原典版」を使用しています。よく演奏されるフレンチカンカン(地獄のギャロップ)の入った序曲は、この作品が人気を得た後に有名ナンバーをつなぎ合わせてメドレーにしたもので、元々の序曲とは異なります。私は原典版の方が本来の格調(?)があっていいような気がします。

フレンチカンカンが出てくるメドレーの序曲は下記をお聞きください。




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