美しきパースの娘(ビゼー)
La jolie Fille de Perth (Bizet)
作品紹介(美しきパースの娘)
美しきパースの娘は、日本では「小さな木の実」という名曲に姿を変えて親しまれています。
1971年に「NHKみんなの歌」で全国に流れた”小さな木の実”は、長く日本中で歌われ、音楽の教科書にも載った名曲ですが、このオペラの中でヘンリーが歌うセレナードを元に作られています。
私も子供の頃からこの曲が大好きで、その切なく胸に迫るメロディーが幼心に琴線に触れたものでした。
大人になってそれがビゼーの曲だと知った驚きときたら! フランスオペラと我が身の運命的なものを感じたものです。私の前世は絶対フランス人だわ〜!とかってね。。(ちょっと大袈裟)
小さな木の実は、父を亡くした少年の物語風な詩で、その詩がまた素晴らしいのですが(「坊や 強く生きるんだ この広い世界 おまえのもの・・」という歌詞が有名です)、原曲は恋人の窓辺で歌う愛のセレナードなので、全然関係ありません。(旋律も若干異なります。 誤解が元でつれなくなった恋人に「以前のように誠実な恋人の声に耳を傾けておくれ」と思いを伝える歌で、フィナーレの重要なシーンでも再度登場します)
クラシックを元に歌を作ろうというアイデアに基づき、作曲家の石川皓也さんがこの曲を選んで編曲し、 海野洋司さんが「交通遺児を励ます歌」という趣旨に叶うような詩をつけたのだそうです。
よくまあ、こんなに見事な歌を作ってくださいました。なぜにこんなマイナーなオペラの曲を選んだのか、と思いますが、敢えて他の人がまだ手をつけていない曲を選んだのだそうです。
オペラのストーリーは、カトリーヌ(英名キャサリン)とアンリ(英名ヘンリー)という若い二人の恋物語。美しいカトリーヌに横恋慕する好色なロスシー伯爵と、伯爵の愛人であるジプシーの女王マブがからみ、誤解があったりすれ違いがあったり事件があったりした挙句に、元のサヤに収まる、という話。すれ違いの最中に、恋人の心を取り戻そうとアンリが切々と歌うのが、例のセレナードです。フランス語がとても美しいリリックな愛の歌です。
また、もう一つこの曲で有名なのが、「アルルの女第2組曲」の”メヌエット”として知られる曲。
これは、伯爵とマブの2重唱の対旋律を元に、ギローが編曲してアルルの女第2組曲に入れたものです。
メヌエットのメロディーは歌の旋律ではなく、歌にかぶさるフルートの対旋律(オブリガート)で、これなどはフランスオペラの特徴である、対旋律の美しさが発揮された良い例ですね。下に元歌を載せていますので、是非聴いてみてください。
ちなみにその「アルルの女」とは、同名の劇の付随音楽としてビゼーが作曲した27曲から、演奏会用の組曲にピックアップしたもので、第一組曲はビゼー自身が選んだ4曲、第二組曲はビゼーの死後親友のギローが4曲を選んだものですが、その第二組曲のうちの1曲は、アルルの女からでなくこの美しきパースの娘からとられているのです。(アルルの女も、プロヴァンスの情緒たっぷりの名曲です。アルルの女から作られた「アニュス・デイ」をこちらのページで紹介しています)
ギロー(Ernest Guiraud)という作曲家は、この曲の他にもカルメンやホフマン物語などの補作もしており、パリ音楽院の教授としてドビュッシーらの指導もしていた、フランスオペラの隠れた大功労者なのです。(ご自身の曲は現在演奏されることは殆どないそうですが、私は妙に親しみを感じる方です)
このオペラの作品としては、ビゼーの特徴であるメロディーの美しさ、重唱や合唱の美しさはもちろんですが、最後にカトリーヌの「狂乱の場」があるのがひとつの特徴です。(狂乱の場とは、当時流行った様式で、失恋等のショックで精神錯乱になったヒロインによる悲嘆の場のこと。有名なのはランメルモールのルチアやハムレット)
その後、アンリがセレナードを歌うことで正気に戻り、メデタシメデタシとなります。
お薦め動画(美しきパースの娘)
●小さな木の実
●セレナード (小さな木の実の元歌) à la voix d'un amant fidele ロベルト・アラーニャ
(ギター伴奏は、アラーニャの二人の弟さんだそうです。多芸な3兄弟です)
※ 埋め込み無効なのでYouTubeに行ってお聴きください → セレナードYouTube
●上記のセレナードはビゼーの若い頃の作品「ドン・プロコピオ」に元になる曲があり、前半の旋律はほぼ同じ(歌詞は違う)ですが、後半はソプラノとのデュエットになっています。このデュエットもビゼーらしくていいですよ〜
「ドン・プロコピオ」よりセレナーデ アラン・ヴァンゾ、マディ・メスプレ
※ 埋め込み無効なのでYouTubeに行ってお聴きください。 → ドン・プロコピオYouTube
●「アルルの女第二組曲メヌエット」の元歌
Nous voilà seuls 伯爵とマブの2重唱 フルートの対旋律をお聴きください。
好色な伯爵がカトリーヌに変装したマブをカトリーヌと思って口説き、愛人のマブは気を引きながらも焼きもちを妬くという、駆け引きの2重唱です。
※ 動画が削除されてしまったので、下記全曲版の1:28:50~をご覧ください。
●こちらから全曲 1998年 コンピエーニュ帝国劇場(フランス)
大変貴重な全曲映像です。
カトリーヌのインヴァ・ムラ、アンリのチャールズ・ワークマン、公爵のジャン=フランソワ・ラポワント共にとても適役で、歌も演技も上質。このコンピエーニュのシリーズはどれもフランス情緒豊かな素晴らしい上演です。
・「小さな木の実」の元歌のセレナード: 1:05:25〜
・ラルフのアリア: 1:12:40〜
・アルルの女メヌエットの元歌2重唱: 1:28:50〜
●アルルの女 第2組曲 メヌエット(ギロー補作)
●アルルの女 第2組曲 プレリュード
●ラルフのアリア Quand la flamme de l'amour ロジェ・ソワイエ
カトリーヌに片思いするラルフ(カトリーヌの父の弟子)が、酔って報われぬ愛と我が身の哀れを嘆く歌です。