預言者 (マイアベーア)
     Le Prophète (Meyerbeer)


作品紹介 (預言者)

「預言者」というタイトルから、ヨハネのような聖人の殉教の話かと想像してしまいますが、だいぶ違います。
どちらかと言うと「ニセ預言者」に祭上げられた男の憐れな末路、って感じ。

居酒屋主の気のいい兄ちゃんだったジャンが、ダヴィデ王の絵にソックリという理由で革命派に「預言者」として仲間に誘われ、最初は断るも、婚約者を領主に奪われた怒りから革命に加わり、貴族達を殺して王にまで昇りつめ、しかし最後は皇帝軍に追われて自爆し果てます。

16世紀の史実「ミュンスターの反乱」の指導者ヤン・ファン・ライデンをモデルにしているそうですが、細部は全て創作のようです。

マイアーベーアのオペラの主役はダメ男が多いけど、このジャンも結構なダメ男。
2幕で匿っていた愛する婚約者を、追って来た伯爵に「差出さないと母親を殺すぞ!どちらかを選べ!」と言われてあっさり渡しちゃうところから「はあ?」って感じだったけど、4幕では王に即位する戴冠式に現れた母に「我が息子!」と言われ、”神の子”を自称してる立場上、母を「見知らぬ女(&頭がおかしい女)」呼ばわりするのも相当です。

婚約者ベルテと母フィデスの女性2人は、誠実で、敬虔で、強くあり通すのに(歌も力強く素晴らしい!)、神に選ばれし預言者を演じながら、2人への愛と権力欲の間で右往左往する憐れなジャン・・

マイアーベーアの音楽は歌も管弦楽もとても美しく、後の世代の作曲家(ヴェルディやグノーなど)が手本にしたのが明らかなメロディーがたくさん登場します。有名なのは、4幕の「戴冠式の行進曲」と、3幕のバレエ「スケートをする人々」ですが、戴冠行進曲はヴェルディの「アイーダ」の凱旋行進曲や「ドン・カルロス」の火刑シーンの入場の音楽にとても似ていて、彼の音楽が後世に与えた影響力がよく分ります。

ノーカットだと4時間超の大作なので、現代ではなかなか上演の機会は多くありませんが、グランドオペラの傑作のひとつとして、もっと評価されるべき作品だと思います。


あらすじ (預言者)

【1幕】
村の小作人たちの牧歌的な合唱で幕が開き、若い娘ベルテはもうすぐ愛するジャンと結婚できると喜びを歌います。ジャンの母親フィデスが迎えに来て、2人で領主のオーベルタル伯爵に結婚の許しをもらいに行くことに。そこへ3人の男(アナバプティスト:改革派の新教)が現れ、小作人たちに暴君の圧政から自由を得るために立ち上がろうと扇動します。ベルテとフィデスは伯爵に結婚の許可を請いますが、ベルテの美しさに目を付けた伯爵は拒否。領主の横暴さに村人たちは怒りを募らせます。

【2幕】
ジャンの経営する酒場では村人たちが陽気に騒いでいます。3人のアナバプティストは、ジャンがダヴィデ王の絵に生き写しだと驚き、彼こそが我々の求める使徒だとジャンを誘います。しかしジャンは不吉な夢(自分が王冠を戴くも地獄に堕ちる)に怯えつつも、ベルテの愛だけが私の王国、今彼女を待っているのだと断ります。
そこに駆け込んでくるベルテと追ってくる伯爵たち。ジャンはベルテを匿いますが、伯爵に「彼女を差し出さないと母親を殺すぞ!どちらかを選べ!」と脅されベルテを渡してしまいます。怒りに絶望したジャンは、復讐のために3人組の仲間に入ることを決意します。

【3幕】
蜂起したアナバプティストの兵士や農民たちは、貴族たちを殺して次々勝利を収め、酔いしれて歌います。氷の張った池にはスケートで食料などが運び込まれ、若い娘たちがスケートをして陽気に踊ります(バレエシーン)。しかしジャンは、自分がリーダーに担ぎ上げられた反乱が、残酷な虐殺であることに思い迷っています。
領主オーベルタル伯爵は城を焼かれ、逃げる途中でアナバプティストの野営地に迷い込んで捕まり、3人組は死刑を主張します。伯爵はジャンに「ベルテは純潔を守るために川に飛び込んだが助けられ、今ミュンスターにいる」と正直に告げると、ジャンは「ベルテが裁くだろう」と言って伯爵を釈放します。ベルテがミュンスターに居ることを知ったジャンは躊躇っていたミュンスター攻略を決意。しかし彼の指示を待たずにミュンスターを攻めた仲間が敗北して戻り、ジャンを「ニセ預言者」呼ばわりして非難すると、むしろジャンは覚醒。神に勝利を祈り、民衆たちを鼓舞する歌を高らかに歌うと、ミュンスターへ進軍していきます。

【4幕】
アナバプティストに占領されたミュンスターで、貴族や市民は服従を強いられています。ジャンが死んだと思い込み絶望したフィデスもその地を彷徨い、ジャンを探しに来たベルテと再会します。ジャンは預言者に殺されたと告げるとベルテは悲嘆し、悲しみの2重唱から復讐を誓う激しい2重唱へと続きます。
戴冠行進曲が鳴り渡り、預言者が王となる戴冠式が始まります。人々が祈り預言者を讃える中、フィデスはベルテの預言者暗殺が成功するよう祈ります。預言者が現れ玉座に着くとフィデスは驚き「我が息子!」と叫びますが、ジャンは”神の子”であるため彼女を母と認めるわけにはいきません。公衆の面前で「知らぬ女、狂った女だ」と言い放ち、なおも縋る母に「皆の者、剣を抜け!もし私がこの女の息子で皆を騙していたなら、偽りの預言者を殺すがよい。さあ女よ、私はおまえの息子か?」と問い、母は「私が間違っていました・・私に息子はいません」と答えるのです。

【5幕】
皇帝軍がミュンスターに迫っていると知った3人組は、ジャンを引き渡して自分たちは助かろうと画策。フィデスは投獄され自分を捨てた息子に怒りつつも「愛する息子のために自分を捧げよう、憐れな息子が赦されますように」と歌います。ジャンが現れ「お母さん!道を誤った息子をお許しください」と言うも、母は「おまえの手は血塗られ神に嫌われた暴君だ」と断じます。後悔に打ちのめされたジャンは「最初は正義の怒りで残酷な領主を罰したかったのです」と弁明しますが、「彼らですら自分が神と同等だなどと思いあがる冒涜はしなかった!本当に後悔しているのなら、その権力とおまえを王にした民を捨てなさい」と諭され、ジャンも改心を決意。
そこに地下の火薬庫に火をつけに来たベルテが現れます。死んだと思ったジャンとの再会に喜び、3人で慎ましく生きようと幸福を歌います。しかしジャンが預言者であることを知ったベルテは驚愕。「怖ろしい人!ああ、血と罪に塗れたあなたをまだ愛している自分を罰します」と言って短剣で自害します。絶望したジャンは戴冠の祝宴に戻り乱痴気の饗宴に加わりますが、3人組に導かれた皇帝軍が入ってくると火薬庫に火をつけ、「神聖な炎よ、我々を神の元へお連れください!」と祈りながら敵味方共々炎に包まれます。

※原語リブレットはこちら → Le Prophète


お薦め動画(預言者)

●全曲(日本語字幕付き)2017年 トゥールーズ・キャピトル劇場
ジョン・オズボーン、ケイト・アルドリッチ、ソフィア・フォミナ
主役3人いずれも真摯な熱演で、この作品の真価を伝えてくれる見事な最新映像です。主演のジョン・オズボーンはマイケル・スパイアーズと並んでレアなフランスオペラを数多く歌っている貴重な実力派。彼なくしては蘇演できなかった作品も多数あります。

(1幕) 0:02:12~、(2幕) 0:31:15~、(3幕) 1:03:04~、(バレエ) 1:10:50~、(4幕) 1:47:40~、(戴冠行進曲) 2:07:40~、(5幕) 2:34:56~

※この動画の日本語字幕は、個人の有志の方が付けてくださったようです。詳細は存じませんが、感謝申し上げます!


●全曲(音声のみ) 2017年 ベルリン・ドイツオペラ
グレゴリー・クンデ、クレモンティン・マルゲーヌ、エレーナ・ツァラゴワ



●上記ベルリンドイツオペラ公演のトレイラー映像 演出:オリヴィエ・ピィ



●4幕 戴冠行進曲 吹奏楽でもよく演奏される行進曲の名作です。



●バレエ音楽「スケートをする人々(レ・パティヌール)」Les patineurs 全曲
Valse:00:00~、Rédovva:01:36~、Quadrille:08:50~、Galop:13:28~



●上記バレエ音楽はコンスタント・ランバートの編曲でバレエ団用の作品にリメイクされています。
バレエ「スケートをする人々(レ・パティヌール)」Les patineurs 振付:フレデリック・アシュトン 



●音声のみ全曲(完全版)
上掲の動画ではカットされている曲(10分以上ある長すぎる序曲全曲など)が入っています。




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