いやいやながらの王様 (シャブリエ)
Le Roi malgré lui (Chabrier)
作品紹介(いやいやながらの王様)
この「いやいやながらの王様」は、ラヴェルやストラヴィンスキーに大変称賛されたそうで、プーランクは次のように証言しています。
「ラヴェルはよく私に、『”いやいやながらの王様”の初演が、フランスの和声の方向性を変えたのだ』と言っていました。それは真実であり、なぜなら今まで聴いたことのない響きをもつ彼の和音は、ドビュッシーやラヴェルの道しるべとなったからです」(※出典:オペラ・コミック座Webサイト)
初演は1887年ですので、ドビュッシーとラヴェルはまだ若造(&少年)だった頃ですが、後の大作曲家たちに絶大な影響を与えた重要な作品であり、1911年のブリタニカ百科事典には、「現代における最高のオペラコミックの 1 つ」と記されているそうです。(※出典:Wikipedia英語版)
実際に聴いてみると、その音楽はまさに極上!
フランス的な洒落た優美さと、生き生きとした闊達さに溢れ、こんなドタバタコメディーに付いているのがなんかもったいない!・・というか、フランス音楽というとラヴェルとドビュッシーばかり有名だけど、こんな素晴らしいシャブリエが埋もれているなんて、なんて不公平!と思ってしまいます。
作品中では2幕の「ポーランドの祭り」と3幕の「スラヴ舞曲」が、コンサート等で単独で演奏されることもある華やかな名曲として有名ですが、他にはミンカのアリア「それは古いボヘミアの歌」をナタリ・ドゥセがCD録音しています。しかし他にも、2幕のアンリとアレクシーナの2重唱、これぞフランスのエスプリというべき甘美で官能的なデュエットなど、素晴らしい音楽ばかり。
この作品はオペラ・コミックに分類されることもオペレッタに分類されることもありますが、いずれにしてもストーリーはドタバタ喜劇なうえに、変装して人が入れ替わったり陰謀やら不倫やらややこしく混乱気味という難点があるにも関わらず、音楽はまったく立派で、しかもユーモアに富んで洒落てて、2幕にはグランド・オペラ張り(パロディ?)の大コンチェルタートまで登場し聴きごたえ満点です。
この作品の10年前に作られた「エトワール」の方はDVDやLDが出ていてやや知られていますが、こっちもYoutubeにとても面白い映像が出ていますので、是非聴いてみてください!
あらすじ(いやいやながらの王様)
舞台は16世紀ポーランド王国の(当時の)首都クラクフ。空位となった王座に就くため、いやいやながらフランスからやって来たアンリ3世は、祖国フランスが恋しく帰りたくてたまりません。ポーランド貴族内にはフランスからではなくオーストリアから王を迎えようとする陰謀があることを知ったアンリは、その策略にのればフランスに帰れる!と、変装して忠臣ナンジスに成りすまし、陰謀一味に加わります。
一味を率いるラスキ伯爵邸で夜会を装った集会が開かれ、華やかな舞踏会が行われます(ポーランドの祭り)。アンリはそこで元カノ(かつてヴェニスのゴンドラで恋に落ちた)のアレクシーナに再会し、人妻の彼女との愛が再燃したりしながらも、一味に対する忠誠を高らかに誓います。一方、ナンジスは人々に「王」と呼ばれて訳が分からず戸惑っていましたが、アンリの企みを知るとすっかり調子に乗って王気取りで恋仲のポーランド娘ミンカを王妃扱い。しかし陰謀者たちは「王は殺すしかない」と言い出し、暗殺役にクジ引きで選ばれたのはなんとナンジス(に成り代わったアンリ)。しかしミンカが先回りして王(ナンジス)を逃がし、憤る貴族たちに「私を処刑してください。愛する人のために命を捧げることに何の後悔もありません!」と毅然と言います。
国境の宿屋では慌ただしく新王を迎える祝いの準備をしています(スラヴ舞曲)。ミンカとアレクシーナはそれぞれの恋人の身を案じて想いを歌い、ナンジスは死んだと聞かされたミンカは絶望で自死しようとしますが、そこに無事に逃れたナンジスが現れ歓喜の2重唱。一方オーストリアの大公は王位を放棄したため、ラスキ伯爵一味もアンリを王に受け入れることに。帰国は諦めポーランドの正装で登場したアンリは王位を宣言し、アレクシーナの夫にローマ大使を命じて追い払って愛も成就。人々は「いやいやながらの王様万歳!」と讃えて幕となります。
※原語リブレットはこちら → Le Roi malgré lui
お薦め動画(いやいやながらの王様)
●全幕 2012年 バード音楽祭 アメリカ交響楽団
アメリカNYでレアな作品を多く取り上げている夏の音楽祭の貴重な全幕映像です。米人メインながらセリフもフランス語で大熱演。演出はヘンテコだけど豪華で面白く、歌手はみな芸達者でとても楽しめます!
ミンカは若い頃のネトレプコみたいし、ラスキ伯爵はトランプ大統領みたいだし、アンリは超イケメン。宿屋のオヤジがずっとローマ法王(ポーランド出身)の肖像画が掛かった部屋でTV見てるのも可笑しい!
<聴きどころ>
・0:00:38~ 序曲 ラヴェルが絶賛した新しい和音での開始です
・0:11:14~ 兵隊の行進、王を讃える合唱
・0:31:12~ アンリのアリア(フランスへの望郷の歌)
・1:05:34~「ポーランドの祭り」後半のバレエ&合唱が華やかで素晴らしい!
・1:25:30~ ミンカのアリア「それは古いボヘミアの歌」イケてるお姉さんがマイク持って熱唱
・1:35:15~ アンリとアレクシーナの二重唱。いかにもフランスオペラ的な甘美で洒落たデュエット
・1:41:59~ 序曲のメロディーでアンリの誓い~合唱付き4重唱の大コンチェルタート
・2:13:04~「スラヴ舞曲」(合唱つき)この素晴らしい闊達な音楽!
●序曲 シャルル・デュトワ指揮、ラジオフランス交響楽団
長らくほぼ唯一の全曲音源にして名盤として親しまれた録音です。
●2幕 ポーランドの祭り シャルル・デュトワ指揮、ラジオフランス交響楽団
●3幕 スラブ舞曲 ポール・パレー指揮、デトロイト交響楽団
●"Il est un vieux chant de Bohème" それは古いボヘミアの歌 ナタリ・ドゥセ
●抜粋 2009年 パリ・オペラコミック座 演出:ロラン・ペリー