チュリパタン島(オッフェンバック)
    L'Île de Tulipatan (Offenbach)


作品紹介(チュリパタン島)

オッフェンバックは1幕物の短いオペレッタもいくつか作っているのですが(2本立てで上演されることが多い)、この「チュリパタン島」はその中でもヒット作だそうで、今も小劇場などで時々上演されています。

曲数は少ないけれど、どの歌も生き生きとした楽しい洒落た歌ばかりで、オッフェンバックの魅力を凝縮したような佳作と思います!

ストーリーは男女が逆になった二人の、ドタバタ恋の顛末。
バカバカしい・・と言うなかれ! LGBTの概念などなかった頃なのに何とも気の利いたストーリーで、気弱な優男と、粗暴なお転婆娘が、自分にはない物を持っている相手に自然に惹かれ合う様子は、なんとも純粋で、ホノボノしてて、素敵なんです!
「音楽は好き?楽器は何を?」なんて会話から意気投合していく様子は、コミカルだけどロマンティック。

風刺やパロディが本領のオッフェンバックらしいネタもたくさん登場します。島の領主カカトワ公は、新聞の三面記事にある事ない事スキャンダルを書かれ、「あんなデタラメ信じちゃいかん!」と弁解し、デタラメ(=canardはアヒルの意もある)アヒルの合唱をする様子は、今の政治家と何も変わらんような。

絶望で死にたいと言う娘を父が抱きしめる歌は、当時人気だったグランドオペラ「ユダヤの女」(アレヴィ)のパロディになっていて、ユダヤ人エレアザルが娘を殉教させる決意をし慟哭する歌そのまんま!(でもこれに気づく人は現在では殆どいないと思うけど・・)オッフェンバックは他の作品でもよくグランドオペラを茶化してます。

最後になんとも楽しいバルカローレ(舟歌)が登場するのですが、「ん?これって『こうもり』(J.シュトラウス)の最後の『シャンパンの歌』にソックリでは?」と思ったのだけど、これはパロディではなくチュリパタン島の方が先ですよ!(初演は6年早い)。シュトラウスはオッフェンバックに薦められてオペレッタを作ったそうですが、あの名曲はこのチュリパタンを聴いたシュトラウスがちょっと真似したのではないかな?

当時のパリっ子たちにオッフェンバックは圧倒的大人気だったそうで、こんな極上の音楽で大笑いすれば、日々の憂さも忘れる最高のエンターテインメントだったことでしょう。



あらすじ(チュリパタン島)

チュリパタン島の君主、カカトワ22世の息子アレクシー殿下は、優しく繊細で、飼っていた鳥が逃げてしまったとメソメソ泣いていて、父のカカトワは「もっと男らしくしなさい!」とおかんむり。反対に、カカトワ公の重臣ロンボイダールの一人娘エルモーザは、お転婆が過ぎるどころか「戦争大好き!」とライフルをぶっ放す始末で、こちらも父親の悩みの種。しかしエルモーザはアレクシーのことを「優しくて素敵」と気に入っていて、二人だけになった際に大胆に告白します。気弱なアレクシーは初めは戸惑っていましたが、明るくおおらかなエルモーザとなぜか気が合い、愛の二重唱になります。

アレクシーと結婚したいと言い出すエルモーザに両親は大慌て。まずは母親が、長年自分の胸にだけ秘めていた秘密を告げます。「エルモーザが生まれたときに戦争が始まり、兵隊に取られるのを恐れて本当は男の子なのに女の子として育てた。アレクシーとは男同士だから結婚できない」と。母が去ると今度は父親が来て、また彼だけが知る長年の秘密を告げます。「カカトワ公の上の子は二人とも女の子で、3人目に世継ぎの男の子を強く望んでいた。出生を報告する役目の自分は、本当は女の子だったのにそれを言えず男の子と報せた。アレクシーとは女同士だから結婚できない」と。

男女が逆と知った二人は大喜びで本来の服に着替えますが、事情を知らないカカトワ公や、片方の事情しか知らない両親はドタバタを繰り広げます。やがて全てが明らかになり、世継ぎの男子がいないことを知ったカカトワ公はショックを受けますが、「でも、よい考えがある。わしが再婚して世継ぎをもうければよいのだ!」でメデタシメデタシ。



お薦め動画(チュリパタン島)

小劇場での上演ですが、いい味を出してる楽しい全曲映像が2つ出ています。

主役の二人がとってもチャーミング! エルモーザ役のテノールは出てきた瞬間可笑しいし、アレクシー役ソプラノは凛々しくて素敵です。
セリフ部分は英語ですが(歌は仏語)、可笑しさが秀逸な名演です。

《 歌部分の索引 》
(05:30〜)エルモーザのクプレ「大騒ぎ万歳」
(09:44〜)アヒルのクプレ「カカトワ公万歳」
(13:49〜)アレクシーのクプレ「愛するおまえを失って」
(21:03〜)エルモーザとアレクシーの二重唱「音の鳴る物みんな好き」
(24:44〜)エルモーザとアレクシーの二重唱「私があなたと同じ男なら」
(32:00〜)テオドリーヌのエアー「コーヒースプーンを探しに行きましょう」
(35:20〜)ロンボイダールとエルモーザの二重唱「恐ろしい秘密を知って」
(44:07〜)エルモーザとアレクシーの二重唱「あなたなの、驚きだわ!」
(46:46〜)バルカロール(舟歌)「美しいヴェネツィアで」
(56:50〜)フィナーレ「芝居も終わりとなりました」



●2009年 Opéra de Barie
こちらは本家フランスでの上演。歌唱は上のアメリカ人の方が上手いけど、フランス的バカバカしさが楽しく、トボけたオッサンたちの迷演がゲラゲラ笑えて最高。

《 歌部分の索引 》
(06:40〜)エルモーザのクプレ「大騒ぎ万歳」
(11:32〜)アヒルのクプレ「カカトワ公万歳」
(15:26〜)アレクシーのクプレ「愛するおまえを失って」
(23:00〜)エルモーザとアレクシーの二重唱「音の鳴る物みんな好き」
(26:57〜)エルモーザとアレクシーの二重唱「私があなたと同じ男なら」
(36:10〜)テオドリーヌのエアー「コーヒースプーンを探しに行きましょう」
(40:52〜)ロンボイダールとエルモーザの二重唱「恐ろしい秘密を知って」
(47:44〜)エルモーザとアレクシーの二重唱「あなたなの、驚きだわ!」
(50:05〜)バルカロール(舟歌)「美しいヴェネツィアで」
(1:01:10〜)フィナーレ「芝居も終わりとなりました」


●(ダイジェスト) 2013年 エトルタ・オッフェンバックフェスティバル
ピアノ伴奏の小規模な舞台ですが、テオドリーヌ(母親)のエールなどは、ナルホド、こういう即興的お笑いのための歌なんだな、と理解できます。フィナーレもいい感じ!




●2019年6月 日本での上演「オッフェンバック生誕200年コンサート」
主催:ミクロコスモス、(歌唱:フランス語、台詞:日本語)
指揮:久保田洋、カカトワ公:古澤利人、アレクシー:渡邊恵津子、ロンボイダール三村卓也




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