オペラ用語辞典
オペラで使われる用語のうち、特に一般の用語集には出ていないような言葉を重点に掲載しています。
[ あ行 ] [ か行 ] [ さ行 ] [ た行 ] [ な行 ] [ は行 ] [ ま行 ] [ や行 ] [ ら行 ] [ アルファベット略称 ]
■ あ行
- アインザッツ
- 休符の後の「入り」、歌いはじめのタイミングのこと。特に複数の歌手や、合唱が揃って出るときに使う。
- アクート
- 高音を力強い声で歌うこと。単に高音部(パッサージョを超えた高音部)をさす場合もある。テノールやソプラノに使う。acutoはイタリア語で「鋭い」の意。
- アジリタ
- 細かく速いパッセージのこと。コロラトゥーラ・ソプラノには必須のテクニックで、コロコロ玉を転がすように歌うが、アルトやバスの低音のアジリタも存在する。agilitaはイタリア語で「俊敏な」の意。
- アリア
- オペラの中で歌われる独唱曲。主要登場人物が重要な場面で印象的に歌い、オペラの聞かせどころとなる。単独でコンサートなどでも歌えるような独立した形態となっているものが多く、蝶々夫人の「ある晴れた日に」などのように題名をつけて呼ばれている歌も多い。
- アンサンブル
- 2人以上で同時に演奏すること。オペラでは、2人の場合は通常デュエット(2重唱)と呼ばれるので、3重唱、4重唱・・・7重唱・・などなどをアンサンブルと呼ぶ。例としてはヴェルディのリゴレットの3幕で歌われる4重唱「美しい恋の乙女よ」など。
- インテルメッツォ
- 間奏曲のこと。オペラの幕と幕の間(後の幕の最初)にオーケストラだけで演奏される。名曲も多く、間奏曲だけをひとつの作品としてコンサートで演奏することもある。幕の途中で小休止的に演奏されるものも、通常インテルメッツォと呼ばれる。(マスカーニのカヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲など)
- イン・ボッカ・アル・ルーポ
- これから舞台に上がる歌手等に向けての激励の言葉。イタリア語で「In bocca al lupo!」(直訳すると「狼の口の中へ!」という意味)は、勇気を持ってチャレンジして、という意味で「頑張って!」のように使われる。言われた人は、「Crepi」(狼)くたばれ!と答えると決まっている。「トイ・トイ・トイ」も似た状況で使われる。
- ヴェリズモ・オペラ
- 現実主義的なオペラのこと。おとぎ話的なオペラや歴史物と比較して、現実の生活や人間を写実的に描き、特に暗く陰惨なストーリーであることが多い。代表作は「道化師」や「カヴァレリア・ルスティカーナ」、フランスオペラではマスネの「ナヴァラの娘」。
- オペラ・コミック
- フランスオペラの形態のひとつで、歌だけでなくセリフが入っていることが最大の特徴。グランド・オペラが壮大長大であるのに対し、オペラ・コミックは身近な題材を扱ったり、軽妙さを特徴とする。必ずしも喜劇ではないが、悲劇であっても途中道化役が登場したりブッフォシーンがあることが多い。代表作は、ビゼーの「カルメン」や、マスネの「マノン」。
- オペレッタ
- 歌だけでなくセリフや踊りを含み、軽妙でコミカルな喜歌劇。現在のミュージカルに近い。オッフェンバックが始祖であり、その後ウィーンでシュトラウスやレハールが広めた。代表作はオッフェンバックの「天国と地獄(地獄のオルフェ)」、ヨハン・シュトラウスの「こうもり」。
■ か行
- カウンターテナー
- 男性がファルセット(裏声)を使って女声と同等の高い音域を歌う歌手。バロック音楽ではカストラート(少年期に去勢した男性)によって歌われていたパートを、現在はカウンターテナーが歌うことも多く、近年世界的に人気が出ている。
- カデンツァ
- 曲の終盤で、ソリストが技巧を披露する部分。オペラでは、アリアの終盤で歌手が独自の装飾をつけて歌う。ホフマン物語のオランピアのアリアなどで行われる。
- クプレ
- 日本語に訳すと「小唄」。アリアほど大仰でなく、ちょっとした気の利いた洒落た歌、風刺的な内容であることが多い。また、1番、2番、3番・・のように、同じメロディーで歌詞を変え繰り返し歌われる形が多い。ホフマン物語のオランピアの歌や、カルメンのエスカミーリョの闘牛士の歌は、アリアとも呼ばれるがこのクプレにあたる。また、歌全体でなく各節(1番、2番・・)のそれぞれをクプレと呼ぶ使い方もある。
- グランド・オペラ
- フランスオペラの形態のひとつで、全5幕からなり、壮大な物語を大規模でドラマティックなオペラに構成したもの。大規模な合唱やバレエを含み、セリフは使用せず全幕を歌で構成する。代表作はマイアベーアの「アフリカの女」「悪魔のロベール」、アレヴィの「ユダヤの女」、ヴェルディの「ドン・カルロス」等。グノーの「ファウスト」やトマの「ミニョン」、ベルリオーズの「トロイアの人々」等もグランド・オペラに近い要素が多く、ヴェルディの「アイーダ」なども広義のグランド・オペラと呼ばれることがある。
なお、フランス語では Grand Opéra の d と O はリエゾンして発音するため、日本人の中には「グラントペラと表記すべき」と言う人もいるが、そもそもカタカナ読みの「グラントペラ」は仏語のGrand Opéraの発音とは似ても似つかないため、リエゾンのみ仏語流にすることにあまり意味はない。 - クリティカル・エディション
- 「批判校訂版」と訳されるが「原典版」と同義で、できるだけ作曲家の本来の楽譜、意図に沿った楽譜の版のこと。楽譜は後に改変されてしまうことも多いため、改変された版と比較する意味でこう呼ばれる。
- ゲネプロ
- 「ゲネラル・プローベ」の略で、ジェネラル・リハーサルのドイツ語の言い方。本番同様に行う通しの最終リハーサルのこと。
- コレペティター
- 歌劇場で、オペラ歌手に練習をつける役割の人。ピアノ伴奏をしながら個別に読譜、暗譜、演技等を指導する。歌劇場では重要な役割であり、コレペティター出身のオペラ指揮者も多い。コレペティトール、コレペティートア等とも呼ばれる。
- コロラトゥーラ
- 「技巧的な」の意。特にソプラノやテノールにおいて、複雑で速いパッセージでトリルなどの装飾を多用した曲、あるいはそれを得意とする歌手をさす。コロコロと玉を転がすように歌う。声質の軽い歌手向き。
- コンサート形式
- オペラを、舞台装置や演出なしで演奏すること。オーケストラも舞台上にあがり、その前でソリストが歌う。ソリストが若干の演技を行う場合もあるが、通常は立った状態で歌い、譜面を見ていることが多い。
- コンチェルタート
- オペラの途中の幕の最後などで歌われる、オーケストラ、大勢のソリスト、合唱によって大規模に演奏される劇的な曲。敵味方入り乱れての、全員の感情が昂揚するような場面が多い。グランド・オペラやヴェルディの作品で多くみられる。
■ さ行
- サリュ
- フランス語でカーテンコールのこと。salutは「挨拶」の意。
- ジェネラル・リハーサル
- 本番同様に行う通しの全体リハーサルのこと。最終のリハーサルをさすこともある。日本では「ゲネプロ」と呼ぶことが多い。
- スタジオーネ方式
- 歌劇場の上演形態のひとつ。一定期間一演目だけをを行う。舞台装置はそのまま固定しておけるが、連日の上演は無理なので(歌手は毎日は歌えない)、公演は数日おきに行われる。スカラ座やパリ・オペラ座、日本の新国立劇場がこの方式。対するのは「レパートリー方式」
- ステージドア
- 楽屋出入り口のこと。出演者が出入りするので、終演後にサインをもらったりする場合は、この前で待つ。
- スピント
- 声質の分類のひとつ。リリコよりも強く芯のある声。
- スーブレット
- 小間使いや快活な小娘の役のこと。声質はレッジェーロ~リリコが多く、小柄で可愛らしい容姿で、コミカルな演技もできる歌手が適する。フィガロの結婚のスザンナなど。
- セレナーデ
- 夜に愛する女性の窓の下から恋心を歌いかけるイメージで作られた歌、あるいは器楽曲。オペラにおいては、まさにそのシチュエーション(恋人の窓辺でテノールやバリトンが愛を告げる)の歌が多くあり、ギターやマンドリンを弾きながら歌うことも多い。有名なのは、ドン・ジョヴァンニ(モーツァルト)のセレナーデ、ファウスト(グノー)の悪魔のセレナーデ、 美しきパースの娘(ビゼー)のセレナーデ(小さな木の実の原曲)、など。フランス語読みはセレナード。
- ソワレ
- 夜公演のこと。昼公演(マチネ)の対義語として使うことが多い。
■ た行
- タイトルロール
- オペラの題名になっている役のこと。「カルメン」「トスカ」「蝶々夫人」「ドン・ジョヴァンニ」などがタイトルロールである。
- ダブルビル
- 二本立て興行のこと。1幕物等の短いオペラを2作品合わせて上演する。有名な組合せはマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」とレオンカヴァッロの「道化師」で、これはCav/Pagの略称で呼ばれるが、他の組合せも数多くあり、フランスオペラではマスネの「ナヴァラの娘」やラヴェルの「スペインの時」などが、他の作品と組み合わせて上演されることが多い。
- ディーヴァ
- スター的な女性オペラ歌手、歌姫のこと。語源は「神がかり的な」の意のラテン語で、歌唱力だけでなく魅力的な存在感を有する歌手を賞賛する際に使う。男性歌手の場合はディーヴォと言う。
- ディクション
- 言葉(歌詞)の発音、言葉遣いのこと。オペラは歌詞によって歌われるので、声だけでなくディクションが正しく明瞭であることも重要。
- テッシトゥーラ
- 「音域、声域」のこと。オペラでは特に、その役や歌の声域(高い、低い)をさす。
- トイ・トイ・トイ
- 「Toi toi toi!」はもとはドイツの魔よけのおまじないで、現在はこれから舞台にあがる歌手等に向けて「うまく行きますように」「成功を!」という意味で使う。「イン・ボッカ・アル・ルーポ」と同様に使われるが、「トイ・トイ・トイ」は自分でもまじない的に言う。トイというのは悪魔が語源で、それを追い払う意味で、木製のもの(机や床)をコツコツコツ、と3回叩いたりもする。
- ドレス・リハーサル
- 本番と同じ衣装、セットで行う通しのリハーサルのこと。複数回行う場合もあり、その場合最終のリハーサルは「ファイナル・ドレス・リハーサル」、「ジェネラル・リハーサル」などと呼ぶ。
- ドラマティコ
- 声質の分類のひとつ。スピントよりもさらに強く、劇的な声。
■ な行
■ は行
- ハイC
- 高い「ド」の音のこと。テノールの最高音であり、アリアの見せ場で歌われる難所であることが多い。日本では「ハイ・ツェー」とドイツ読みされる(英語圏では「ハイ・シー」と言う)。テノール歌手であってもハイCが不安定(もしくは殆ど出ない)歌手もあり、そうなるとレパートリーは限定される。ハイCの部分を音を下げて歌われることもしばしばある。
- パッサージョ
- 声楽において、低音から高音に上がって行く際に発声法を変える部分。ソプラノやテノールでは大抵、高いファ~ソ周辺であることが多い。この近辺を滑らかに歌うこと、あるいはこの部分の発声法自体が歌い手にとってはとても難しい。パッサージョより上の音を「アクート」と呼ぶ。
- バルカロール
- 「舟歌」と訳され、ヴェネツィアでゴンドラを漕ぎながら船頭が歌う緩やかな歌をイメージして作られた歌、あるいは器楽曲。オペラにおいてはオッフェンバックの「ホフマンの舟歌」(ソプラノとメゾの二重唱)が有名だが、他にもオベールの「ポルティチの物言わぬ娘」のマザニエロやピエトロの舟歌や、ヴェルディ「仮面舞踏会」のリッカルドの舟歌などがある。
- ビブラート
- 音を伸ばす際に、音の高低(あるいは音量)を小刻みに揺らすこと。楽器でも歌でも適切にビブラートをかけることで豊かな表現を出せるが、歌の場合はやり過ぎると不快になる。特にオペラ歌手の場合は、ビブラートが「かかってしまう」ケースが高齢の女性歌手に多い。
- ファルセット
- 裏声のこと。テノールが高音部で優しく歌う場合などに、ファルセットを効果的に使うことがある。
- ブッフォ
- 喜劇的なオペラ、あるいは喜劇的なシーンをさす。
- 舟歌
- 「バルカロール」参照
- プルミエール
- 初演のこと。特に、新作あるいは新演出の最初の公演をさす。仏語本来の発音は「プルミエール」(première:女性名詞)だが、日本では「プルミエ」(Premier:男性形)と言われる場合も多く、英語読みでは「プレミア」とも言う。
- プロダクション
- 舞台制作のことだが、オペラでは通常「演出」の意味で使う。新演出作品は「ニュープロダクション」。
- プロンプター
- 本番で、舞台前方下部のプロンプターボックスから、歌手に指示を出す役割のスタッフ。歌いだしのタイミングや歌詞などを全曲を通してサポートする重要な役割。ライブ録音を聴くと、プロンプターの声が入っていることはよくある。
- ベルカント
- もともと「美しい声」の意味で、自然で美しいイタリア式の発声法をさすが、特にロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティのオペラをベルカント・オペラと呼ぶ。その後のヴェルディやワーグナーの劇的で強い声と対比して、明るく軽快で装飾的な技巧に富む点が特徴。
■ ま行
- マエストロ
- 日本では「巨匠」と訳されるが、イタリア語でmaestroは「先生」の意で、音楽界では特に指揮者に対する敬称。指揮者以外でも、偉大な音楽家(作曲家、歌手、ピアニスト・・)等も尊敬を込めてマエストロと呼ぶ。指揮者や大歌手に呼び掛ける際は、マエストロと言っておけば間違いはない。
- マチネ
- 昼公演のこと。オペラは通常、夜上演されるので(ソワレ)、昼公演を特にこう呼ぶ。
- メト
- ニューヨークのメトロポリタン歌劇場の略称である「Met」の日本語の言い方。メットと言う人もいる。
■ や行
■ ら行
- ライトモチーフ
- 「示導動機」と訳し、登場人物や、ある状況を象徴する短い旋律線のこと。全幕を通して多少形を変えながら繰り返し登場し、状況や人物を鮮明に描写するのに効果をあげる。
- ライブHD
- メトロポリタン歌劇場が行っている、オペラ公演を世界中の映画館に生中継する催しのこと。ヨーロッパで夜に観劇できるよう、ニューヨークではマチネ(昼公演)で行われる。日本では生中継は行われず、1~2か月遅れで「Metライブビューイング」の名称で映画館で上映される(配信元:松竹)。HDとはHigh Difinition(高精細映像)のこと。近年他のオペラハウスでも似たような催しが行われている。
- リリコ
- 声質の分類のひとつ。軽めで叙情的な優しい声。
- リリック
- 「叙情的な」の意で、「リリコ」と同様に使われる。他の使われ方として、フランスでは「クラシック音楽」の意で使われたり、YouTubeでは「歌詞つきの動画」の意味でも使われる。
- ルバート
- テンポを変化させること。本来的には長くした音符は他の部分を短くして総合して長さを変えない意味だったが、次第に奏者が自由にテンポを変化させる意味で使われるようになった。ロマン派の叙情的な作品に多く、オペラであればプッチーニなどがその典型。
- レジーテアター
- ドイツ語のRegietheater「演出家主体の演劇」の意で、オペラ公演においては演出家の独創によって自由に時代や状況設定を変更して演出することを指す。「読み替え」演出と似た意味で使われることも多いが、単に時代や場所を読み替えるだけでなく演出家の主張を前面に出すもので、優れた作品もある一方、作品本来の意図を捻じ曲げたコジつけの独断演出も多く、批判も絶えない。
- レチタティーボ
- セリフを語るように歌う部分。アリアのようにメロディックではなく、主にストーリーを展開するために歌われる。
- レパートリー方式
- 歌劇場の上演形態のひとつ。同期間に複数の演目を日替わりで上演する。ウィーン国立歌劇場やメトロポリタン歌劇場、ロンドンのロイヤルオペラハウスがこの方式。連日舞台装置の交換が必要。この方式の場合、新演出以外ではジェネラルリハーサルを行わずに本番に臨むこともある。旅行者は短期間の滞在で複数演目を見ることが可能。対するのは「スタジオーネ方式」
- レッジェーロ
- 声質の分類のひとつ。軽い声をさす。
■ アルファベット略称
- BSO
- ミュンヘンの歌劇場、バイエルン国立歌劇場(Bayerische StaatsOper)の略称。(※ボストン交響楽団の略称も同じ)
- DOB
- ベルリンの歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ(Deutsche Oper Berlin)の略称。
- GMD
- 歌劇場等の音楽総監督(General Music Director)の略称。音楽面を統括する総責任者であり、指揮者を兼務することが多い。
- MES
- Mise en scèneの略。フランス語で「演出」のこと。ミゾンセーヌと発音するが、日本ではミザンセーヌとして演劇・映画用語になっている。
- ONP
- パリ・オペラ座(Opéra national de Paris)の略称。パリ・オペラ座には2つの劇場があり、旧来からあるガルニエ宮では現在主にバレエが上演され、1989年に完成したオペラ・バスティーユで主にオペラが上演される。
- ROH
- ロンドンのロイヤル・オペラハウス(Royal Opera House)の略称。コヴェントガーデン王立歌劇場とも呼ばれる。
- TCE
- パリのシャンゼリゼ劇場(Théâtre des Champs-Élysées)の略称。
- WSO
- オーストリアのウィーン国立歌劇場(Wiener StaatsOper)の略称。