ヘンリー八世 (サン=サーンス)
      Henry VIII (Saint-Saëns)


作品紹介(ヘンリー八世)

歴史上の大人物、16世紀のイングランド王「ヘンリー八世」を、史実を基に描いた壮麗なグランド・オペラ。

サン=サーンスの優美な音楽で綴る大河ロマン・・・と思いきや、ストーリーは血も凍る伏魔殿の冷酷話!
王として君臨しながらも猜疑心に囚われ、家臣も妻も次々に斬首刑に処した残酷王の怖ろしさが描かれます。

祖先がこれじゃ、現在のイギリス王室のゴタゴタ、ダイアナ妃の悲劇やハリー王子の醜聞も、仕方ないか~(むしろ大分マシ?)・・って思ってしまいます。

このヘンリー八世は、6度結婚し、うち2人の妻を斬首刑にしているため、猟奇的残酷王としての一面が有名で、「青ひげ伝説」のモデルとする説もあるくらいですが、実際には長所も多かったらしく、教養豊かで文武両道に優れ、愛国心に溢れて国民の人気もあったのだそうです。しかしこのオペラでは、そういった美質はほぼ描かれず。

王の餌食となる2番目の妻アン・ブーリンについても、憐れで同情を誘うというよりは、玉座に目が眩んで誠実な恋人を裏切った自業自得の印象強し。というわけで、最初の妻キャサリン王妃が、アンとドン・ゴメスの過去を知りながら秘密を守り抜いて死んでいく自己犠牲のみが、貴い精神として際立ちます。

オペラとしては、4時間近い大作で、大規模な合唱やコンチェルタート、長大なアリアや重唱、20分超も続くバレエ等、グランドオペラの要素満載で、サン=サーンスらしい流麗で洗練された音楽です。有名なアリアがないために、現代では知られざる作品となっていますが、1幕のヘンリー王のアリアや、4幕のキャサリン妃のアリアなどは、今も単独でコンサート等で歌われることがあるようです。(下に動画を載せています)

また、7曲構成のバレエ音楽は、イングランド、スコットランドなどの民謡や風俗を取り入れた組曲で、華やかな中にイギリス情緒と懐かしい香りがします。下に載せたリセウの動画では、貴重なバレエ上演も見ることができますので、どうぞご覧ください。



あらすじ(ヘンリー八世)

16世紀イングランドの王 ヘンリー八世(仏名アンリ)は冷酷な暴君として怖れられ、かつての忠臣や親友でさえ、意に染まぬと冤罪を着せて処刑してしまいます。美貌のアン・ブーリンに目を留めた王は、彼女をキャサリン王妃(仏名カトリーヌ)付きの女官にしたうえ、侯爵夫人の称号を与え寵愛します。スペイン大使のドン・ゴメスと愛を誓いあっていたアンは、最初こそ戸惑い拒絶しますが、王の甘言に権力への欲望が芽生えます。それでも愛人の立場は拒むと、王は「王妃とは離婚し、そなたを王妃にしよう」と約束するに至り、ついに夢見た玉座が!と恍惚と王への永遠の愛を誓います。祝いの舞踏会でバレエが催され、王とアンは密かに結婚式を挙げます。

王は「キャサリン妃との婚姻の無効」を主張し、裁判が行われます。早世した兄の未亡人キャサリンとの結婚は、兄弟の妻との関係を禁じるレビ記に背き無効と主張する王に対し、王妃は長年王に忠誠を尽くしたのでお慈悲をと訴えますが、支持してくれるのは同郷のドン・ゴメスのみ。裁判官は王の意に沿って無効の判決を下しますが、ローマ教皇の使者はそれを却下し離縁は認められぬと断じます。怒った王はローマ教会からの離脱と、新教(イングランド国教会)の設立を宣言し、国民はヘンリー八世の栄光を讃えます。

王妃となり栄華を極めるアンも、世継ぎの男児が生まれないことで立場が微妙になり、王から過去に疑いの眼差しを向けられ苦悩し始めます。王の誕生日、捨てられ隠棲しているキャサリン妃から王への祝辞をドン・ゴメスが伝えに来ます。アンは、かつてドン・ゴメスとの仲を王妃に仲介してもらった際の手紙をキャサリンが持っていることを怖れ、キャサリンの許を密かに訪れます。死期の迫ったキャサリンに今までのことをしおらしく詫びてみても、証拠隠滅に来たことはバレています。「私とゴメス二人の心を裏切ったことは決して許せない」と怒りに震えるキャサリン。そこにヘンリー王がゴメスと共に訪れます。アンがいることに驚き、王もキャサリンに今までの仕打ちを殊勝に詫びてみせますが、キャサリンから秘密を聞き出すことが目的。なかなか口を割らないキャサリンに苛立った王は、「証拠がないなら疑いは晴れた。アン、おまえだけを愛している!」とアンに迫り、証拠の手紙を握りしめたキャサリン、恐怖におびえるアンとドン・ゴメスは「なんて酷い拷問!身も心も凍り付く!」と劇的な4重唱になります。しかしキャサリンは、死の直前に手紙を暖炉の火に投げ入れ、「神様、どうぞお赦しください」と言って息絶えます。王は「秘密を墓場まで持っていきおった!」と怒り、「わしを侮辱する者は、斬首だ!」と、恐怖に慄くアンを睨みつけます。

※原語リブレットはこちら → kareol.es(Enrique8)



お薦め動画(ヘンリー八世)

1991年 仏コンピエーニュ帝国劇場 指揮:アラン・ギンガル
フィリップ・ルイヨン、ミシェル・コマン、リュシール・ヴィニョン、アラン・ガブリエル

希少なフランスオペラの映像を多く残したコンピエーニュの見事なプロダクションです。(日本語字幕付き)
ヘンリー8世役のフィリップ・ルイヨンが絵のように美しい立ち姿で、サイコパスだけど見惚れる!

●全曲(1幕~3幕)


●全曲続き(4幕)



●上記コンピエーニュと同じプロダクションで、2002年リセウ歌劇場での再演映像。(全曲)
キャサリン王妃役をモンセラ・カバリエが歌っています。
音質は悪いですが、2幕のバレエ上演を見ることができます(01:31:58~ )



●1幕 ヘンリー王のアリア "Qui donc commande, quand il aime?"



●終幕 フィナーレの4重唱



●終幕 キャサリン妃の故郷を追慕するアリア "Ô cruel souvenir" カリーヌ・デエ



●バレエ音楽(音声のみ)
1.序奏-入場、2.スコットランドの牧歌、3.ホップの祭り、4.ジプシーダンス、5スケルツォ、6.ジーグとフィナーレ(本来もう1曲ある「ハイランド人の踊り」はこの録音には含まれていません)



●リセウでの上演時のバレエシーン(ジプシーダンス)
これ以外の曲のバレエは、上掲リセウの全曲動画で見ることができます。





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