マノン (バレエ音楽) マスネ
Manon(ballet)Massenet
作品紹介(マノン:バレエ版)
バレエ「マノン」は、同じマスネ作のオペラ「マノン」と混同されることがありますが、全く別の作品です。
そもそもマスネ自身がバレエ音楽として作ったわけではなく、バレエ振付師ケネス・マクミランが新作バレエを創るにあたって、マスネのたくさんの作品の中から選んだメロディーをつなぎ合わせ、作曲家レイトン・ルーカスが編曲したものです。(初演はマスネの没後半世紀以上たった1974年)
膨大なマスネの作品の中から、よくぞこんなピッタリな曲を探し出して上手いこと繋ぎ合わせたものだ!と感心するばかりですが、wikipedia(英語版)等によると、延べ48曲(重複を除くと41曲)ものメロディーが繋がれていて、内訳はオペラ13作品から23曲、オラトリオ2作品から4曲、管弦楽組曲から7曲、歌曲から4曲、ピアノ作品から2曲、劇音楽から1曲。
オペラも13作品もから選んでいるのに、オペラ「マノン」の音楽が全く使われていないのが残念な気もしますが、オペラのシ-ンとの混同を避けるために敢えてそうしたのかな、と推測します(真相は不明)。オペラからは「サンドリヨン」や「グリゼリディス」など、メルヘンチックな作品から多く曲が選ばれています。
しかし、この元々マノンのために作られたのではないツギハギの音楽は、驚くほど一体感があってマノンに相応しく、美しいマスネのメロディーがギッシリ詰まった玉手箱のよう。マスネの音楽の特長である、甘美で、洒落ていて、哀愁を帯び、神聖さと官能という相反するものが同居する不思議な魅力に溢れています。
元々有名だった曲は出会いのパ・ド・ドゥで使用されている「エレジー」くらいだと思いますが、このバレエのおかげで寝室のパ・ド・ドゥ等で使用されているサンドリヨンの曲や、沼地のパ・ド・ドゥで使用されているオラトリオ「聖処女(聖母マリア)」の音楽が、マノンのメロディーだ!と知られるようになったのは、マスネファンとしては嬉しいことです。
オペラのマノンも素晴らしく感動的で私は大好きですが、このバレエもマクミランの振付が真に天才的で、どのシーンも圧倒的に美しく、特にフィナーレの沼地のパ・ド・ドゥは何度見ても戦慄し涙が出ます。
下記に、バレエ音楽に使われたメロディーの原曲をリストアップし、主なシ-ンの原曲の音源も掲載していますので、どうぞお聴きください。
あらすじ(マノン:バレエ版)
原作はフランスの小説家アベ・プレヴォーの小説「騎士デ・グリューとマノン・レスコーの物語」。
まだ幼さの残る美貌の少女マノンは、修道院に入るための旅の途中で青年デ・グリューと出会って恋に落ち、駆け落ちして同棲を始めます。しかしマノンの美貌に目を付けた老富豪が兄レスコーに金を渡して愛人にしようとします。豪華な宝石やドレスに目が眩んだマノンはデ・グリューを捨て富豪に鞍替えし、社交界で女王のように君臨します。再会したデ・グリューに純愛を訴えられて心が揺れますが、もう貧乏暮らしには戻れないと首をふります。しかしレスコーに賭博で勝てば金持ちになれるとイカサマをそそのかされ、デ・グリューはカードで富豪に勝ち大金を得ますが、イカサマがばれ富豪の怒りはマノンに向かいます。売春婦として捕らえられアメリカに流刑になるマノン。追って来たデ・グリューは囚人マノンに手を出す看守を殺してしまい、2人は荒野に逃げますが、ボロボロに力尽きたマノンは沼地でデ・グリューに抱かれて息絶えます。
浅はかで愚かで、奔放で、美しいマノンは多くの芸術家を魅了し、オペラだけでもマスネとプッチーニとオベールが傑作を残しています。それぞれストーリーが微妙に異なりますが、このバレエは、プッチーニの「マノン・レスコー」に一番近いと思います。
(各オペラのあらすじをまとめていますので、参考にどうぞ)
・オペラ「マノン」by マスネ‥‥あらすじ
・オペラ「マノン・レスコー」by プッチーニ‥‥マスネのオペラとの違い
・オペラ「マノン・レスコー」by オベール‥‥あらすじ
曲構成(マノン:バレエ版)
※下記リストは、英語版wikipedia のリストを元に日本語化し、ROH等の情報を元に一部加筆したものです。
※○印は、先に既出の音楽です。
(1幕)
●オラトリオ「聖処女(聖母マリア)」より「聖処女の永眠」
●オペラ「シェリュバン」より「2幕の間奏曲 Manola」
●オペラ「シェリュバン」よりオーバード「Vive amour」
●管弦楽組曲第3番「劇的風景」より「フィナーレ」第2テーマ
●管弦楽組曲第4番「絵のような風景」より「行進曲」
●管弦楽組曲第3番「劇的風景」より「プレリュードとディヴェルティメント」第2テーマ
●オペラ「ル・シッド」より「序曲」
●歌曲「夕暮れ」
●オペラ「グリゼリディス」より「間奏曲:田園恋愛詩」
●管弦楽組曲第3番「劇的風景」より「プレリュードとディヴェルティメント」第3テーマ
●オペラ「タイス」より「バレエNo.4 アレグレット」
●オペラ「アリアーヌ」より「アリアーヌの愛人」
●劇音楽「エリニュエス(復讐の女神たち)」より「Invocation(祈り)」(※後の「エレジー」)
●オペラ「ドン・キショット」より「風車」
●オペラ「サンドリヨン」より「王女たちのマーチ」
●オペラ「サンドリヨン」よりサンドリヨンのアリア「お姉様たちはなんて幸せなんでしょう」
●歌曲「君の青い瞳を開けてよ」
●オペラ「サンドリヨン」より「貴族の娘たち」
●ピアノ曲「とても遅いワルツ」
●管弦楽組曲第3番「劇的風景」より「プレリュードとディヴェルティメント」第1テーマ
(2幕)
●管弦楽組曲第3番「アルザスの風景」より「酒場で」
●オペラ「クレオパトラ」より「カルデア人の踊り」
○歌曲「夕暮れ」
●歌曲「カプリ島の歌」
●管弦楽組曲第4番「絵のような風景」より「バレエの調べ」
●オペラ「ナヴァラの娘」より「夜想曲」
●オペラ「ラオールの王」より「ディヴェルティメント:ワルツ」
○劇音楽「エリニュエス(復讐の女神たち)」より「Invocation(祈り)」(※後の「エレジー」)
●歌曲「雨が降っていた」
●オペラ「グリゼリディス」より「精霊のワルツ」
●オペラ「バッカス」より
●オラトリオ「エヴ(イヴ)」より「2幕への前奏曲」
●オペラ「グリゼリディス」よりアリア「彼は春に去った」
●オペラ「クレオパトラ」より「アマゾネスの踊り」
(3幕)
●オペラ「ドン・キショット」より「1幕への序奏」
●オペラ「グリゼリディス」よりシャンソン「愛の国アヴィニョンにて」
○歌曲「夕暮れ」
●オペラ「サッフォー」より
●オペラ「クレオパトラ」より「スキタイ人の踊り」
●オラトリオ「エヴ(イヴ)」より「呪い」
●ピアノのための7つの即興曲より「即興曲第3番」
○オペラ「ドン・キショット」より「1幕への序奏」
●オペラ「サンドリヨン」より「パンドルフのアリア」
○オペラ「グリゼリディス」よりアリア「彼は春に去った」
○オペラ「グリゼリディス」より「精霊のワルツ」
○劇音楽「エリニュエス(復讐の女神たち)」より「Invocation(祈り)」(※後の「エレジー」)
●オラトリオ「聖処女(聖母マリア)」より「聖処女の法悦」
※上記の他に、オペラ「エスクラルモンド」からも採用されているようですが詳細不明。
お薦め動画
●全幕 デンマーク王立バレエ団 2014年 アレクサンドラ・ロ・サルド、アルバン・レンドルフ
小柄で愛くるしいマノン、誠実なデ・グリュー、チャラさが上手いレスコー、皆ハマり役の素晴らしい公演です!
・1幕
・2幕、3幕
●出会いのパ・ド・ドゥ オーレリー・デュポン、ロベルト・ボッレ
原曲は「エレジー」です(元は劇音楽「エリニュエス(復讐の女神たち)」の「Invocation(祈り)」)
●寝室のパ・ド・ドゥ サラ・ラム、ワディム・ムンタギロフ
原曲は前半はオペラ「サンドリヨン」の「サンドリヨンの眠り」、後半は歌曲「君の青い瞳を開けてよ」です。
●沼地のパ・ド・ドゥ オーレリー・デュポン、ロベルト・ボッレ
原曲はオラトリオ「聖処女(聖母マリア)」より「聖処女の法悦」
音楽もバレエも素晴らしく感動的なフィナーレです。
元になった曲の紹介
●出会いのパ・ド・ドゥの原曲
エレジー(劇音楽「エリニュエス(復讐の女神たち)」より「Invocation(祈り)」)
この曲は、後にチェロのための曲と、歌曲「エレジー」に転用されて有名になっています。
●寝室のパ・ド・ドゥの原曲
・前半:オペラ「サンドリヨン」より、1幕サンドリヨンのアリア「お姉様たちはなんて幸せなんでしょう」"Que mes soeurs sont heureuses"
(バレエでは「サンドリヨンの眠り」"Le sommeil de Cendrillon"というタイトルになってる)
・後半:歌曲「君の青い瞳を開けてよ」Ouvre tes yeux bleus
●沼地のパ・ド・ドゥの原曲
オラトリオ「聖処女(聖母マリア)」より「聖処女の法悦」 ヴェロニク・ジャンス
●2幕 再会のパ・ド・ドゥの原曲
オペラ「グリゼリディス」よりアリア「彼は春に去った」 ミシェル・コマン
●1幕マノン登場シーンソロの原曲
歌曲「夕暮れ」"Crépuscule" by Darryn Zimmer
●2幕 レスコーと愛人の酔っぱらいのパ・ド・ドゥの原曲
オペラ「クレオパトラ」より3幕のバレエ音楽「カルデア人の踊り」