フォルテュニオ(メサジェ)
Fortunio (Messager)
作品紹介(フォルテュニオ)
メサジェという作曲家は、いかにもフランス的な軽妙で洒落た作風が特徴ですが、「浮気」をテーマにしながらも優美な音楽に溢れたこのフォルテュニオもその典型です。
原作は19世紀フランスの作家ミュッセの戯曲「燭台」で、この燭台:chandelier(シャンドゥリエ)という単語は、辞書を引くと『本当の愛人を夫の目から隠すための見せかけの愛人』という意味が載っていて(ロベール仏和大辞典)、この戯曲タイトルはその意味で使われています。
主人公の青年フォルテュニオがまさにその見せかけの愛人役なのですが、それにしてもそんな複雑な浮気の状況をたった一言(燭台)で表現できるなんて、さすがフランスの恋愛文化は高度!
フォルテュニオ君は純粋で内気でちょっと暗い青年なのですが、人妻に狂おしいほどに恋し、あなたのためなら死んでもいい!と熱烈に愛を訴える姿は、なんかマスネのウェルテルにそっくり。彼が危険を承知で彼女の部屋を訪れるシーンは、ウェルテルがクリスマスの晩にシャルロットの部屋に現れる時の音楽に似てるし、そのナイーブな激情っぷりはウェルテル2世かって感じです。(でも結末は悲劇ではなく、ラストで実際の燭台が効果的に使われます)
2019年オペラ・コミック座での上演がDVDで発売され初めて映像で見ることができますが(日本語字幕付き)、それ以前から、美しいアリアの数々は多くの歌手によって録音され歌い継がれてきました。フォルテュニオや人妻ジャクリーヌの歌はどれもとても優美でスッキリとロマンティックで洒落ています。名歌手たちの素晴らしい録音がYoutubeに出ていますので、是非お聴きください。
あらすじ(フォルテュニオ)
田舎の純朴で内気な青年フォルテュニオは、公証人に弟子入りすることになり気乗りしないまま町にやってきますが、初老の公証人アンドレには若く美しい妻ジャクリーヌがおり、フォルテュニオは彼女に一目惚れしてしまいます。美貌の彼女は皆の憧れの的ですが、パリから来た女たらしの新任の連隊長クラヴァロシュは、押しの一手で口説き落とし、夜這いに成功。男が忍び込むのを見たという報せを受けてやってきた夫アンドレは妻を問い詰めますが、上手く白を切り泣いて否定する妻にまんまと騙されます。箪笥に隠れていたクラヴァロシュは、夫を欺くために囮の愛人(chandelier:燭台と同じ語)を使おうと提案します。
クラヴァロシュの言う通りに、夫の弟子の中からナイーブな青年フォルテュニオを選んだジャクリーヌは、私の忠実な友人になってと頼むとフォルテュニオは有頂天に喜びあなたのためなら何でもしますと誓います。彼の純粋さと自分への忠実な愛に気づいたジャクリーヌは次第にフォルテュニオに惹かれてゆきますが、クラヴァロシュの強引さも否み切れません。クラヴァロシュは妻を疑っているアンドレに、代わりに囮のフォルテュニオを捕まらせようと計画。アンドレが夜這いを見張っている夜にフォルテュニオを偽の手紙で彼女の部屋に呼び出します。
盗み聞きで全てを知っていたフォルテュニオは、それでも彼女のために部屋を訪れ(侍女が裏口から通したので見つからず)、彼女への熱烈な愛を告白して僕はあなたのためなら死んでもいいからと自ら捕まりに行こうとします。心打たれたジャクリーヌは「あなたが知らないことがまだ一つある、私があなたを愛しているということ」と告げて二人は歓喜の抱擁。そこに夫とクラヴァロシュが捜索に来ますが、フォルテュニオを箪笥ではない別の秘密の場所に隠します。誰もいないことを確認した夫は疑り深い自分を謝って退散、まだ疑っているクラヴァロシュに彼女は「暗い階段は危ないからこの燭台(chandelier)をお持ちになって」と手渡して追い払い、2人がいなくなるとジャクリーヌとフォルテュニオは熱く抱き合います。
※原語リブレットはこちら → Fortunio (archive.org)
お薦め動画(フォルテュニオ)
●1幕 フォルテュニオのアリア「僕は内気で人見知りなんだ」"Je suis très tendre et très farouche"
公証人に弟子入りを勧める従兄弟に、自分の胸の内を語る歌
1987年リヨン歌劇場の全曲盤CD録音から(ティエリ・ドラン)
●2幕 フォルテュニオのアリア「僕が愛した古い灰色の家」"J'aimais la vieille maison grise"
ジャクリーヌに問われて、故郷の穏やかな村を想って歌う
フランスの若きテノール、ジュリアン・ベール君
●3幕 フォルテュニオのロマンス「愛する人の名はけして言わない」"Si vous croyez que je vais dire qui j'ose aimer"
皆から戯れに愛の歌を所望され、自分の秘めた想いを激しく歌いあげる
往年の名歌手ミシェル・セネシャルで
●4幕 ジャクリーヌのアリア「私がまだ子供だった時は」"Lorsque je n'étais qu'une enfant"
子供の時は一番美しい花を迷わずに選べたのに、今は一番大切な愛に迷ってしまう、と嘆く歌
フランスの歌姫パトリシア・プティボンの録音から
●DVDでフォルテュニオを演じているシリル・デュボワによるピアノ伴奏での2曲。
フォルテュニオのロマンス ~ ジャクリーヌが自分を愛してると知って歓喜の歌
シリル君は純情でやや陰キャなフォルテュニオ役に合ってます
●DVDになっている2019年版と同じ演出で2009年に上演された際のトレイラー