「マノン」と「マノン・レスコー」の違い
「マスネのマノンと、プッチーニのマノン・レスコーの違い」 なんて、音大の課題にも出ないと思いますが、両作曲家ともに大好きな私には、この似たタイプの二人が、同じ原作で同じような傑作を作っていることに興味があります。
マスネにとっても、プッチーニにとっても、この「マノン」が最初の大きな成功を収めたオペラであり、この破滅的で愚かなマノンが、芸術家を触発して成功に導き、昔も今も人々に愛されているという事実はとても面白いと思います。
原作は共に、フランスの小説家アベ・プレヴォーの長編小説「騎士デ・グリューとマノン・レスコーの物語」ですので、おおまかなストーリーや人物の性格はほぼ同じです(マノンの詳しいあらすじは こちら から)。マスネのマノンの方が先に作られており、初演はマスネ版1884年、プッチーニ版1893年です。
享楽的で華やかでブッ飛びキャラのマノンの魅力が炸裂するマスネの作品に較べると、プッチーニのマノンは全4幕中2幕が流刑シーンにあてられて、悲劇的な部分に焦点が当てられています。(マスネは流刑シーンは5幕中1幕のみで、華やかなシーンが多い) しかしその音楽の中には、天才プッチーニがその後に生み出す傑作の数々、ボエームやトスカや蝶々夫人などのメロディーの欠片があちこちにあり、彼のオペラのベースになった作品のように思います。
マスネ版とプッチーニ版のストーリーや設定の違いについて、簡単にピックアップしました。
●マノンの最初の年齢
マスネ版は15歳、プッチーニ版は18歳。マスネの方はまだ分別もつかない少女で登場しますが、プッチーニは最初からある程度大人の女性です。
マスネ版の3幕のガヴォット(私が女王のように街を歩けば・・)では、「20歳の春を楽しみましょう!」と歌っているので、ここで既に5年が経過しています。マスネ版では、ピチピチ無邪気だったマノンちゃんが、セクシーな女性へ、妖艶な女王様へ、そして最後にはデカダンスの極致へと変化していく様が見物ですね!
プッチーニ版では、そこまでマノンの強烈なキャラは描写されておらず、やや普通な感じです。
●レスコーの設定
マスネ版はマノンの従兄で初めて会うという設定で、プッチーニ版はもともと保護者的な兄。ただし、賭博好きで人は善いけど軽薄で頼りないというキャラは同じです。
●マノンのパトロン
マスネ版は金持ちの貴族ギヨー(実際に妾になるのは彼の友人のブリティニー)、プッチーニ版はやはり金持ちの大臣ジェロンテ。共に好色爺で、冒頭でマノンに目をつけて誘拐しようとし、最終的にマノンたちに怒って流刑に処します。
●シーンの違い
プッチーニ版はパリの愛の巣のシーンや神学校のシーンはなく、全て2幕のジェロンテの妾邸が舞台となります。ジェロンテの妾として贅沢三昧の暮らしをしているマノンの元へ、捨てられたデ・グリューが訪れよりが戻ったところをジェロンテに見つかり、腹いせに警察を呼ばれたのに、宝石をかき集めようとして逃げ遅れ、あっけなく捕まってしまいます。
マスネ版では、パリの蜜月を金のために一瞬で捨てたマノンが、贅沢暮らしにも飽き足らず、神学校に押し掛けて口説き落としてよりが戻った後、またお金がなくなり賭博場でギヨーとカードをした際にイカサマだと警察を呼ばれ捕まります。困ったチャンのマノンの奔放さと、振り回されるデ・グリューの哀れさがこれでもかと描写されているのはマスネ版です。
●流刑シーン
共に、流刑になるマノンを助けようと、ル・アーヴル港でデ・グリューとレスコーが略奪を画策するも失敗に終わることは同じ。
マスネ版は、出航前にフランスの港でマノンは息絶えます。プッチーニ版は、マノンについて行きたいデ・グリューが見習い水夫として乗船させてもらい、流刑地アメリカまで行って、広大な荒野をさまよいながら息絶えます。マノンの最期の哀れさはほぼ同じですが、「流刑地アメリカ」という設定がインパクトがある分プッチーニのが凄絶かな。
プッチーニ マノン・レスコー
●2014年 バイエルン国立歌劇場 トレイラ―
現在マノン・レスコーといえばこのコンビ!と大人気の美人ソプラノ、クリスティーヌ・オポライス&ヨナス・カウフマンです。
●2016年 メトロポリタン歌劇場 クリスティーヌ・オポライス、ロベルト・アラーニャ
2幕 マノンに籠絡されるデ・グリュー
●4幕 流刑地でのデスシーンの二重唱 オポライスとアラーニャの感動的な絶唱です。(間奏曲の美しいメロディーで歌われます)
●2幕 捨てたデ・グリューとの愛が再燃する2重唱
1980年 メト ドミンゴ、レナータ・スコット
●3幕の前の間奏曲 ノスタルジックで切ない、大変美しいインテルメッツォです。